ざっくりとだが、ジャズピアニストには2タイプある。

 まず、音と音の間のスペースやタッチの緩急が特徴的な演奏家。バド・パウエルやハービー・ハンコックなどだ。そして、パワフルでスピード感ある演奏が特徴なタイプ。オスカー・ピーターソンやマッコイ・タイナーである。

 山中千尋は、明らかに後者に属する。

 小さい顔からはみ出しそうなほど大きな瞳。まさに透き通るような肌。もう何年もこの人をインタビューしているが、肌の衰えはまったく感じられない。至近距離で観察しても、ツルッツルだ。

 そんな容姿麗しい山中が、ステージに上がると一気に“男前”になる。広背筋や上腕筋を目一杯使って、力強く鍵盤を叩く。しかも、ものすごい速弾き。叩いた鍵盤がリカバーするより速く次の音が鳴り、さらに次の音も鳴る。容姿と演奏のギャップもこの人の魅力のひとつなのだ。

 身体の大きなアメリカ人が主流なジャズ界でアジア人女性がパワーヒッターで生きるにはハンディは大きい。しかも、山中は日本人としても小柄なほうだ。

 しかし、そんな現実をものともせず、彼女はニューヨークで活躍を続ける。

 ところが、山中が初めてセクステットで録音した新作『サムシン・ブルー』ではこれからの自分のスタイルをあえて封印。力を抑え、アンサンブルを重視し、情緒的な演奏をしている。

 新鮮だ。

『サムシン・ブルー』

2014年7月16日発売
通常盤¥2,800+税 初回限定盤(CD+DVD)¥3,500+税
http://www.universal-music.co.jp/chihiro-yamanaka

  • 山中千尋

    福島県生まれ、群馬県育ち。ジャズピアニスト、作曲家、アレンジャー、プロデューサー。米ボストンのバークリー音楽大学を首席で卒業し、アルバム『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』でデビュー。『アピス』『レミニセンス』などのアルバムを発表。最新作は『サムシン・ブルー』(ユニバーサル ミュージック。)3曲の映像を収録したDVD付限定盤も同時リリース。8曲収録のアナログレコードも発売中(¥5,556+税)。9月26日(金)、27日(土)にはブルーノート東京で『サムシン・ブルー』のショーを行う予定。http://www.bluenote.co.jp/jp/
    山中千尋オフィシャルサイト http://www.chihiroyamanaka.com/
    山中千尋ツイッター https://twitter.com/ChihiroYamanaka

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太