ハービー・ハンコックからヒントを得たピアノソロ
山中千尋
- Magazine ID: 1470
- Posted: 2014.08.14
「I have a dream」
1963年8月28日、ワシントン大行進で、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が人種差別の終焉をうったえた演説の冒頭の言葉だ。
キング牧師は翌年の64年にノーベル平和賞を受賞するが、68年にテネシー州メンフィスで暗殺された。暗殺の翌年の69年に、いまや巨匠となった若き日のハービー・ハンコックが発表した曲が「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」である。
ハービーは8本の管楽器を起用。オーケストラに聴こえる作品を完成させた。
この「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」を、山中千尋は新作『サムシング・ブルー』で演奏している。
山中版「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」はフルートをフィーチャー。自らのピアノは、オリジナルを尊重してか、スペースと緩急で聴かせるハービーに近い演奏になっている。
「ハービーのピアノのしなやかさが私は好き」
山中は打ち明けるが、ハービーに近いこのテイストのピアノを山中はあまり披露してこなかった。
「日本の音楽大学でクラシックを勉強した後、ボストンのバークリー音楽院に入ってジャズを始めた当時、私、ソロがまったくできなかったんです。ジャズは演奏していなかったので。その当時、ハービーのピアノから学びました」
その当時は、ケニー・カークランドやジョーイ・カルデラッツォなど、ガツン! と弾くスタイルが人気だった。
しかし、山中はあえてハービーの奏法を研究したそうだ。
「カークランドのように弾くと、すぐに演奏のネタが尽きてしまうんです。一方、ハービーはジャンプするまでの助走が長いというのかな、話しかけるようなピアノを弾き始めて、やがてほかの楽器と会話をかわすように演奏が続いていく。あの感じはとても参考になりました」
ハービー・ハンコックは9月に来日公演を行う。
9月4日にブルーノート東京で、そして9月7日に東京国際フォーラムホールAで開催される第13回東京JAZZで。
ハービーのソロ演奏のパターンやスペース感覚と山中のそれと聴き比べてみるのも楽しい。
『サムシン・ブルー』
2014年7月16日発売
通常盤¥2,800+税 初回限定盤(CD+DVD)¥3,500+税
http://www.universal-music.co.jp/chihiro-yamanaka
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山中千尋
福島県生まれ、群馬県育ち。ジャズピアニスト、作曲家、アレンジャー、プロデューサー。米ボストンのバークリー音楽大学を首席で卒業し、アルバム『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』でデビュー。『アピス』『レミニセンス』などのアルバムを発表。最新作は『サムシン・ブルー』(ユニバーサル ミュージック。)3曲の映像を収録したDVD付限定盤も同時リリース。8曲収録のアナログレコードも発売中(¥5,556+税)。9月26日(金)、27日(土)にはブルーノート東京で『サムシン・ブルー』のショーを行う予定。http://www.bluenote.co.jp/jp/
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山中千尋ツイッター https://twitter.com/ChihiroYamanaka -
取材・文:神舘和典
1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。
新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html
撮影協力:喫茶 谷中ボッサ http://www.yanakabossa.jp
撮影:萩庭桂太