今週1週間登場するこのふわっとした可愛い女のコは岩田さゆりという女優である。この日の撮影は朝から行われ、最後のカットは二子玉川で終わった。

 岩田さゆりさんのことは明日から4日間ゆっくり書くことにして、今日は年末楽屋落ちスペシャルをお届けしたい。

 実はこの日、N局長が珍しくごちそうを食べさせてくれることになっていた。

「この1年あなたたちには、ほとんどギャラも払っていないのに、実に一生懸命働いていただいきました。せめて忘年会ってことで、年に一度くらいはいい店に行きましょう。うーん、どこがいいかな? 二子玉川で撮影が終わるんだったら高島屋の上にしましょうか」

 私は猛然と店を探した。なんとしてでもデパートの食堂だけは阻止したい。できれば久々にコース料理などを美味しいワインとのマリアージュで食べたいではないか。

「この時期だからねえ。みんなが行きたいような店は予約が取れないと思うけどねえ。デパートならなんとかなるかも……」

 N局長は往生際悪くしぶっていたが、私は渋谷のビオディナミコを推した。水曜だから、きっと大丈夫だと思った。しばらくしてN局長から電話がかかってきた。「うーん、予約、取れちゃったよ……」

 N局長、萩庭桂太、私の3人は、不釣り合いなお洒落な店に集まった。一皿一皿、それに合わせて少しずつグラスでワインを供してくれる気のきいた店である。半熟でふるふるの卵を包んだラビオリとか、あっさりローストした猪とか。少しずついろんなものが載っている。この仕事を引き受けてよかった、と思ったことは、1番が大江千里さんに会えたことで、今回が2番目だ。しかし3人の会話の質はどんな店に入ろうが変わらなかった。

「ハギニワ、おまえも、前の方からだいぶ来てるな」

 髪をかきあげた萩庭桂太にN局長はうれしそうに言った。局長の頭皮は、もはや二毛作し尽した土地のようになっている。

 萩庭桂太は負けず嫌いである。

「いや、僕は止まってます。もう大丈夫だと思います」

 N局長も負けてはいない。

「おまえ、ミッキー・カーチスに似てきたな」

「あ、それ嬉しい。オレ、ミッキー・カーチス好きですよ」

 まさに中3と中2の本領発揮の意地の張り合いだ。

 N局長は悩ましい表情で言う。

「最近、病院で処方してくれる、絶対に生える毛生え薬があるらしいんだ。でもそれはどうやら女性ホルモンが入ってるらしくて、それを塗ると、髪は生えるけど、おっぱいが大きくなって体も丸っこくなるらしい。男性機能も衰えるらしい。モリ、どう思う? ハゲるか、男でなくなるか。上を取るか下をとるか? どっちがいいと思う?」

 困ったものだ。妻でも恋人でもない女に、なぜそんな問いを真顔でしてるんだろう。そうか、一般論が聞きたいのか。いや、とりあえずオレはまだ男性であるということを、暗にほのめかしているのかもしれない……。

 私はドルチェに舌鼓を打ちながら、どちらの顔も見ずに投げやりに言った。

「いいんじゃないですか、もうそのまんまで」。

  • 出演:岩田さゆり

    1990年静岡県生まれ。A型。04年にティーン向けファッション誌の読者モデルオーディションで準グランプリとなり、芸能界へ。『3年B組金八先生』で女優でビュー。その後、大河ドラマ『平清盛』への出演など、多くの人気ドラマ、映画に出演。
    http://www.spacecraft.co.jp/iwatasayuri/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:河西幸司 http://www.uppercrust-2005.com
衣装協力:KariAng Park http://www.kariangpark.jp
撮影:萩庭桂太