強い気持ちで臨んだ『ごちそうさん』の希子役。朝ドラの撮影は大変だ。朝から晩まで1日に20~30シーンが撮影される。和装を着たり脱いだり、多いときは10回以上も着替える。

「でも今回、私は実家から通っているので、そこで緊張が全部ほぐれます。最初はヒリヒリした気持ちで入ったので、そのぬるま湯なところがどうだろうと思ったんですが、今は仕事と何も関係ない人たちとしゃべれる時間があってよかったなあと思いますね。親は絶対安心だし、高校時代の友達も2人いて、えも言われぬ安心感があるんですよ。一人は主婦でもう子どもがいて、もう一人は大学から大学院に行くと言ってる。それぞれが関係ない話をしあって、しんどいことを忘れちゃったりするんです。それぞれ共感はできないけど、しんどいんなら遊ぼうか、と言い合える。全然違う人生だからこそ思いやれる。別のところにいるから、バランスがとれるんだと思います」

 そこで安心感を得ながら、またひりひりした場所へと向かう。

「映像には苦手意識があったのですが、今回はリハーサルもあり、みんながアイデアを持ち寄って『そうくるのか、じゃ、私はこうしてみよう』とやってみることができるので、とても演技を楽しんでいます。40歳までを演じるので、どう老けるか、が今テーマで。髪型、落ち着き、声のトーン、いろいろ考えてますね」

 今まで演じた一番下の年齢はミュージカル『アリス・イン・ワンダーランド』で演じた8歳。『ごちそうさん』の希子で40歳を演じるのは最高齢だ。

「演じることでは、いつも自分の想定内のことができない状況に置かれてきました。誰かがいつも、そういう変化球をいいタイミングで投げてくれる。だからいつもできるのかなあと不安なんですけど。でも自分の引き出しの中で全部できちゃう仕事なんて楽しくないと思うんです。跳べるか跳べないかの、棒高跳びのほうが、面白い」

 きらきらした瞳が、彼女にしか見えない、次の高跳びのバーを見つめているような気がした。

  • 出演:高畑充希

    1991年大阪府生まれ。2005年、ミュージカル『プレイバック part2~屋上の天使』で主演デビュー。07年からはミュージカル『ピーターパン』で8代目ピーターパンとして6年間演じるほか、「みつき」名義で歌手としても活動。主な出演作に舞台『奇跡の人』、ミュージカル『スウィーニー・トッド』、映画『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』、ドラマ『3年B組金八先生』『ナツコイ』『Q10』など。現在、NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』にヒロイン杏の義理の妹、希子役でレギュラー出演中。

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

  • ヘアメイク:西田裕美子

    数店舗の美容室で経験を積んだ後2002年にヘアメイクに転向、ヘアメイク事務所Deuceに所属。やさしい人柄であたたかく誠実な仕事ぶりには定評がある。女性らしく明るい、透明感のあるメイクが得意。現在CDジャケット、PV、TVやショーを中心に活躍中。

撮影:萩庭桂太