朝ドラの楽しみのひとつは、ヒロインがどんな風に恋をして、生涯の伴侶を見つけるか、というところにある。

 今回は杏さん演じるヒロインのめ以子が恋したのは西門悠太郎という帝大生。お見合いをすっ飛ばし、川に落ちてまで求婚しため以子に悠太郎は「お断りします」と言う。理由は大阪の西門家の複雑な家庭事情。大好きになっため以子をそこに巻き込みたくない気持ちからだったのだ……。

 そこまで思うってどんな家やねん、とこちらまでむかついたが、いやはや大阪編が始まってみると「め以子ちゃん、やめといたほうがよかったわ」と言いたくなるめんどくさい家が登場した。父親がいなくなり、複雑になった家庭のなかで、悠太郎の妹の希子は自分を閉ざして言葉を発することさえできなくなっている。

 その希子役に、我らが高畑充希ちゃんが登場したのである。

 充希ちゃんといえば、前回はミュージカル『ピーターパン』の印象そのままの、明るく闊達な女のコ。インタビューでもたくさんしゃべってくれるし、まあこの希子という役とは180度違う。

 いったいなぜ、充希ちゃんが希子になったのだろう。

「オーディションでは、希子役とめ以子の娘の役を同時に選ぶことになっていたようでした。希子の役は16~40歳までを演じ、め以子の娘役は16~24歳までを演じるんですね。私は選ばれるとしたらめ以子の娘役かなあと思っていました。40歳、ってできるのかなあと。いつものままの私を見てもらいました。だから決まったときは『この暗い役をなぜ私に決めてくださったんだろう』と不思議でした。でも、希子のほうが長く演じられるので、決まったときは嬉しかったですね」

 おそらく、プロデューサーは彼女の演技力を見抜いたのだろう。

「とにかく最初の2週間はほとんどしゃべらず演技しましたからね。暗く見えるにはどうしたらいいかと思っていろんな人を観察していたら、伏し目がちなんですね。私は目がバチッとしてるから、眉毛と目の間を広く見せようと思って、儚げな顔を練習しました(笑)」

 彼女の実の母親は「あんたのところだけ照明が暗いんちゃう?」と言ったらしい。抑えて、抑えて、と自分を希子にするうちに、ストレスで肌荒れしてしまったと言う。

「モニターを見ていてニキビが一個できて治ると、こっちにできてる、みたいな。……今まで舞台が多くて、それを画面というちっちゃいサイズで表現するというのも、自分の中ではストレスだったのかも。さすがにもう慣れてきたので、全然大丈夫です!」

 目の前にくるくるした大きな目で元気に話す充希ちゃんがいて、ほっとした。

  • 出演:高畑充希

    1991年大阪府生まれ。2005年、ミュージカル『プレイバック part2~屋上の天使』で主演デビュー。07年からはミュージカル『ピーターパン』で8代目ピーターパンとして6年間演じるほか、「みつき」名義で歌手としても活動。主な出演作に舞台『奇跡の人』、ミュージカル『スウィーニー・トッド』、映画『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』、ドラマ『3年B組金八先生』『ナツコイ』『Q10』など。現在、NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』にヒロイン杏の義理の妹、希子役でレギュラー出演中。

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

  • ヘアメイク:西田裕美子

    数店舗の美容室で経験を積んだ後2002年にヘアメイクに転向、ヘアメイク事務所Deuceに所属。やさしい人柄であたたかく誠実な仕事ぶりには定評がある。女性らしく明るい、透明感のあるメイクが得意。現在CDジャケット、PV、TVやショーを中心に活躍中。

撮影:萩庭桂太