ジャズとは、狂気である。
松浦俊夫
- Magazine ID: 1359
- Posted: 2013.11.29
松浦俊夫がワールドワイドに認知されていったきっかけには、ロンドンで活躍するラジオ・プレゼンターでDJのジャイルス・ピーターソンの存在がある。
ジャイルスは1991年に設立したレコードレーベル「Talkin’ Loud」を持ち、今回のHEXお披露目ライブとなった東京でのイベント『WORLDWIDE SHOWCASE』のプレゼンターでもある。数々の世界的なミュージシャンが彼のお墨付きのもとに世に出ている。
J-WAVEで長年ジャイルスの番組を制作してきた木村真理さんは、06年に『WORLDWIDE SHOWCASE』を始めるとき、彼にこう言われたという。「日本で何か仕事をするときは、必ずトシオと一緒にやりたい。とても大切な人だから」
「ジャイルスは88年に渋谷クラブクアトロで開催された『アシッドナイト』で初来日したんです。その後、実際に会ったときは、U.F.O.のメンバーにフランス人がいて、ジャイルスはスイス・フレンチなので、二人が密に話すようになったんです。それがあって彼とは近しい間柄になっていきました」
小さなきっかけから「大切な人」になるまでの信頼を得るところに、松浦俊夫の人間性が窺える。BLUE NOTEのトップが彼を基軸に日本の若い才能を発掘していこうと考えたことも、そこにつながる。
彼が考えたHEXというプロジェクト名も、シンボリックでどこの国でも通用するようにという思いが込められている。Hexagon(六角形)の略称であり「魔法をかける」という意味ももつ。
「バンド4人とぼく、そしてリスナー。あるいはあとの一人はコスチューム・デザイナーだったり、ビジュアル・アーティストだったり。HEXという船に乗る最後の一人になってもらいたいというニュアンスがあります」
……さて「朽ちない格好良さは、存在する」という仮定について、そろそろ結論を出さねばならない。
私は松浦俊夫に一つ、大きな質問をした。「ジャズとは何か」という問いである。すると彼はこう答えた。
「ジャズとはなんだろう、どうなっていくんだろう、と模索していくことが、すなわちジャズなんじゃないかな。ぼくはミュージシャンじゃないけれど、ジャズにとって大事なことは、タブーがないこと。前に進んでいくこと、挑むことだと思う」
そうか。「格好良さは朽ちない」という仮定には、結論はいらないのである。
果てなく挑んでいく、その姿こそが、格好良さ、なのだから。
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出演:松浦俊夫
1990年、United Future Organization (U.F.O.)を結成し、日本におけるクラブ・ミュージックを先駆ける一人となる。12年間で5枚のフルアルバムを32カ国で発売、高い評価を得た。02年の独立後も世界中のクラブやフェスティバルでDJを続け、幅広いジャンルのアーティストのリミックスを手がける傍ら、ファッションブランドの音楽監修なども行う。また、イベント・プロデュース、コンサルティング、アーティストのエージェント業務などを通し、幅広い人脈を築く。
http://toshiomatsuura.com
http://www.hex-music.com -
取材・文:森 綾
1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810
撮影:萩庭桂太