今回、大久保麻梨子が金鐘賞助演女優賞にノミネートされた作品は単発のテレビドラマ『愛情替聲』。役柄は日本で第一線で活躍しているAV女優、久美子。主人公が大学の論文を書くために彼女に会いにきて、そこで久美子は主人公の男性に昔の恋人の面影を重ねてしまうという役だった。

「台湾にはAV女優という職業がないので、台湾の人が思い描いているイメージと、私が台本を読んでもったイメージとの間に大きなギャップがあると感じ、監督とはよく話し合いながら役作りをさせてもらいました。役の彼女は心に傷をもっている。職業から受けるイメージだけでセクシーさや大胆さを強調するのは、違うのでないかと。それで、一人の女性ということを意識して役のバックグラウンドを細かく設定して演じました。そうしたら、クランクアップ1カ月後にテレビ局と監督が私の役をもっと掘り下げたいということになり、過去の回想シーンを更に撮影することになったんです。今思うと、そのシーンが加わったからこそ、演じた役がより明確になったので、ありがたかったなあと思います」

 きっと彼女の役への思いが通じたのだろう。

 台湾のドラマにはどんな傾向があるのだろうか。

「連続ドラマはラブコメディが多いですね。でもその中にも家族の存在がとても大切に描かれています。恋愛においても両親の意見や家柄が大事なんですね。台湾の女友達と話していて『親が気に入らなかったら彼氏と付き合うのを止める』と言われてびっくりしたのですが、ドラマを見ていると、なるほどそうなのかと思いました。涙を流したり、大雨に打たれたり、キスシーンがすごく多いのも特徴です」

 彼女が出演した『愛情替聲』は、90分の単発ドラマ。

「単発ドラマは人の内面を切り取ったような作品が多いんです。社会問題を描いていたり。今回、私が出演させてもらった『愛情替聲』は、心理的な深さのある恋愛もので、映画みたいなニュアンスがありました。中国語には代わり身を意味する“替身”という言葉がありますが、声を表す“聲”と“身”は同じ発音なんです。ヒロインが声優なので“聲”にかかっているんです。そして、私は主人公の男性に昔の恋人を重ねるわけですから、それが“身”にかかっています」

 実際にまだ拝見していないのが残念だが、面白そうなややこしい話である。

 ぜひ、日本でも放映されることを期待したい。

  • 出演:大久保麻梨子

    1984年9月7日長崎県生まれ。2003年にデビューし芸能活動を続ける中、2010年初めて一人3泊4日の旅行で訪れた台湾に一目惚れし、帰りの飛行機で台湾留学を決意。その半年後から台湾生活を始め中国語を習得し、仕事の拠点も台湾に移し現在、中華圏の広告、雑誌、ドラマなどで活躍中。夢は日本、台湾をつなぐ架け橋の様な人になること。
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  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太