Facebookでいち早く「大久保麻梨子、金鐘賞ノミネート」のことを知った私は「レッドカーペットを歩くんだって?」と彼女にメールした。

 すると、元気な言葉が返ってきた。

「森先輩! そうなんです、ありがとうございます!」

 彼女は私の大学の後輩であるということが判明して以来、ずっと「先輩」と私を呼ぶ。最初はおしりがかゆくなりそうだったが、最近は先輩面しているどうしようもない私である。

「前祝いしましょうよ」

 そうして忙しい彼女を捕まえ、丸の内のワイン・バーで落ち合った。

「レッドカーペットで、何を着るの?」

 すると彼女はくすくす笑った。

「最初に母に電話したときも、真っ先に『何を着るの』って」

 そりゃそうでしょう。レッドカーペットといえば、露出の大きいロングドレスで、しゃなりしゃなり、である。すべての女性とオネエの憧れである。とりあえず、週刊文春的にオヤジっぽい質問もしてみた。

「胸元とかぱーっと開いてるドレス、着るの?」

 麻梨子ちゃんは大笑いしたが、すぐ真面目な顔になって答えてくれた。

「これがね、けっこう事務所の人たちとも話し合ったんですよ。結構、そのことでニュースに取り上げられたりするし、台湾では大事なことらしいんです」

 あながち悪い質問ではなかったらしい。実際、後になって司会者の胸元がウエスト近くまで開いてるドレスが話題になっていた。

「私はほどほどでいいと思うんですけどね。……髪の毛、どうしたらいいと思います?」

 アップにしたら老けるかなあ……。いや、心配ないか。でもせっかく素顔がきれいなんだから、濃過ぎるメークで誰かわからないのは止めたほうがいいよ。……先輩はそうアドバイスし、でもね、と付け加えた。

「みんな遠目から見るから、つけまつげは、あったほうがいいと思うよ」。

「わかりました先輩!つけまつげはつけます!」

 彼女は大きくうなずいた。(……が、当日は慣れていなくてかゆくなってしまい、止めたのだそうだ……)

 iPhoneに入っている試着したドレス姿の写真はどれもうっとりするくらいきれいだった。

「緑は止めました。赤いカーペットの上を歩くと、クリスマスみたいになるんですよ(笑)」

 私たちはアハハ、と笑い続けた。

 彼女は静かに言った。

「せっかくのレッドカーペットだから、楽しんで、きれいに歩けたらそれでいいと思っています」

 私はその時「賞、獲っちゃうんじゃないかな」とひっそり思った。でも、口には出さなかった。軽々しくそんなことを言うのは、失礼な気がしたのだ。

 それほど、1年前に会ったときの彼女とは、落ち着きが違っていた。

  • 出演:大久保麻梨子

    1984年9月7日長崎県生まれ。2003年にデビューし芸能活動を続ける中、2010年初めて一人3泊4日の旅行で訪れた台湾に一目惚れし、帰りの飛行機で台湾留学を決意。その半年後から台湾生活を始め中国語を習得し、仕事の拠点も台湾に移し現在、中華圏の広告、雑誌、ドラマなどで活躍中。夢は日本、台湾をつなぐ架け橋の様な人になること。
    オフィシャルブログ(最新情報)http://ameblo.jp/marilog0907/
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  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太