芸能界へのチャンスはソウルで訪れた。彼女が高校3年生のときのことだ。

「韓国で有名なデザイナーさんがキャンペーンモデルに使いたいと言ってくれたんです。その写真を見たELLE girl やハーパーズバザーなどハイファッション誌が使ってくれるようになって、月に1回はモデルとしてソウルへ通うようになったんです。でもエディターに『なんで韓国人なのに韓国語をしゃべれないの』と言われてカチンと来たりして。身長も168センチしかないし、周囲は180センチ以上ある人ばかりなのに」

「日本の役者は現場で演技を勉強していくんだよ」と幾人ものスタッフに言われたが、彼女には「韓国語」を完璧にしゃべりたいという思いもあり、何よりも演技をきちんと学びたいという思いが強かった。

「ウォンビンさんやカン・ドンウォンさんが学んだ先生を選びました。モデル出身の人が多い学校で、彼らもそこで強い地方訛りを矯正したと聞いたからです。もちろん私は基礎からの勉強だから、本当に大変でした。でも厳しい先生に巡り会えて『言葉を越えて伝わるものがある』とほめてもらえて、頑張れました」

 彼女はそこで自身の心を支える表現方法や演技論と出会っていった。

「アメリカのアクターズスタジオの創設者の一人であるステラ・アドラーの言葉に『あなたは心の底から傷つく職業を選んでしまった。でも痛みから逃げることは死ぬ事よ』というのがあって。それから、私はわーっと体当たりして傷つくことはあっても、後悔はしなくなった気がします」

 一生勉強して、一生トレーニングする。そんなタフな気持ちが育っていった。

  • 出演:玄里(ヒョンリ)

    1986年東京都生まれ。韓国籍。青山学院大学法学部卒業。4年時に韓国・延世大学に留学、映像演技を専攻。英語、韓国語、日本語を話す。韓国映画、日本映画に多数出演。今年になって『夜の途中』『水の声を聞く』の主演作の他4本の映画が公開されている。大河ドラマ『八重の桜』では西郷由布役を好演、ますますの飛躍が期待されている。ケイダッシュグループのアワーソングスクリエイティブ所属。
    http://www.oursongs-creative.jp/profile/hyunri/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:茂手山貴子 http://moteyama.com/
撮影:萩庭桂太