デビューして15年目。彼女の舞台歴は華々しい。常にヒロインとして活躍している。また現在公演中の『ミス・サイゴン』でキム役を演じるのはこの8年で3回目である。

「キムの心とか人生がまっすぐ見えて来ないといけない。でもどうしても、見せようとしてしまう。その殻を破らなくてはといつも思います。たとえば、こういう表情をしたら、こういう歌い方をしたら涙を誘うのでは、と私が考えて演じてしまうと、作品として浅くなってしまう。その場に素直に立って、次の言葉がすっと出てくるようでないと」

 彼女がミュージカルにおいてリアリティを求める姿は真摯だ。

「きれいに歌をうたうこともできるけど、それならオペラでいいでしょう。ミュージカルはお客様にその3時間、ある人と人生をともにしてもらうくらいのもの。『ミス・サイゴン』ならば一緒にベトナムを旅してもらうくらいのリアリティを感じてもらいたいんです」

 3度目の挑戦となる今回は、今まで見えなかった事も見えてきた。

「最後の結末で、キムは自殺してしまうんですが、10代の私にはそれがまったく理解できなかった。『なんで死ぬんだろう』と。でも今、27歳になってキムのことを理解しようとすると、当時のなんの情報もない貧しいベトナムに生きる10代の女性が子どもを身ごもり、捨てられて、それしか選べなかったという状況が客観的にわかるようになりました。自殺はよくないけれど、そうせざるを得なかった苦しさとその決断を受け止められるようになったというか」

 玲奈さん自身にも甥が生まれ、毎日抱きかかえるうちに、母親の愛情というものも客観的に見えてきたのだと言う。

「私がよしよし、ってかわいがるのはお母さんじゃないからなんですよね。すっごいバカ叔母ぶりです(笑)。自分の子どももいつかは欲しいんですけど、今は無責任にかわいがることで満足しちゃってますね」

  • 出演:笹本玲奈

    1985年千葉県生まれ。O型、ふたご座。バレエ、タップ、ジャズとダンスは大好き。98年史上最年少でミュージカル『ピーターパン』主演デビュー。07年に菊田一夫演劇賞、08年に第15回読売演劇大賞優秀女優賞、および杉村春子賞受賞。現在、全国11都市で公演の『ミス・サイゴン』にキム役で出演中。
    http://fc.renasasamoto.jp/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太