翌朝の新聞の1面には、キナの顔写真が大きく掲載された。すれ違う人、カフェの隣の席の人が、ちらちらと彼女を見る。

「私はおそらく、あなたと遠縁の親戚だと思う」

「あなたと私、小学生の頃、親友だったわよね」

 顔も覚えていないような親戚や元クラスメイトから連絡がきたそうだ。こういうヤツ、どこの国にでもいるんだな。でも、彼女にとってはけっして不愉快なことではなかった。

「浮かれちゃダメ。私がやるべきなのは音楽。アルバム作りに向けてきちんと準備をしなくちゃ」

 ただただ自分に言い聞かせた。

 注目されているうちに曲を発表したほうがいいからと、レコード会社からは別のソングライターの手を借りてのレコーディングを勧められた。しかし、この時、キナは強い意志をもって断っている。

「ほかのソングライターに私の人生や考え方を伝えて、曲を書いてもらうという提案でした。でも、どうしても私には受け入れられなかった。初対面の職業作家に話をして代行してもらう曲なんて、たとえ私の人生を書いた作品だったとしても、愛情を持って歌うことはできないからです。それは、あくまでも私の人生に“似ている”曲で、私の人生の真実を歌った曲ではありません」

(取材・文:石神賢介)

ステアウェルズ -ジャパン・エディション-

[アルバム] 2012.05.23発売 2100円(税込) Victor VICP-65056
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A024022.html

  • 出演:キナ・グラニス

    米ロサンゼルス在住のシンガーソングライター。1985年にアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれる。本名はキナ・カスヤ・グラニス。2007年、YouTubeを通じてオリジナル作品を発表し始める。2008年のスーパーボウルで彼女のオリジナル曲「メッセージ・フロム・ユア・ハート」が流れたことで全米に注目される。5月23日、アルバム『ステアウェルズ-ジャパン・エディション-』をリリース(2100円/ビクターエンタテインメント)。現在、世界中で年間約100本のライヴを行い、8月4日(土)ビルボードライブ東京、6日(月)ビルボードライブ大阪で公演を予定
    http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A024022.html

  • 取材・文:石神賢介

    1962年東京都出身。昨年出版した40代バツイチオヤジの婚活記『婚活したらすごかった』(新潮新書)があっという間に10刷のヒット。ネット婚活や婚活パーティーで出会った女性たちとさまざまなセックスをくり広げ、高価なブランド品を度々買わされた、ハウツーにもなる実話が受け、ラジオ出演多数。最新作は『なぜ「スマ婚」はヒットしたのか』(幻冬舎ゲーテビジネス新書)。既婚者の誰もが思い当たる結婚式が高額である理由を徹底的に取材し、ブライダル業界で誰がどうやってもうけているかを解明した。


    http://www.shinchosha.co.jp/book/610430/
    http://www.gentosha.co.jp/book/b5545.html

取材協力:FIAT CAFFE http://fiatcaffe.jp/
撮影:萩庭桂太