2012年、国内自動車レースのメジャーカテゴリー、スーパーGT GT300クラスに参戦。ようやくプロのレーサーになった。けれどここからがまた、大変。ルーキーのこの年はシリーズ4位と健闘したものの、翌年は思ったように成績を上げられなかったのだ。そこで千代は、起死回生の一手に出る。
「1回、海外に修行に出ることにしました。イギリスのチームだったんですけど、単身で行って、コミュニケーションは英語だし、文化も環境も違うし、ヨーロッパ中をまわることになる。すごくハードでした。しかも当時GTカーというジャンルで海外に行くのは僕が初めてのケースだったので、ここで結果が出せなかったら日本のモータースポーツ界から忘れられてしまうかもしれない。すごい遠回りになるかもしれないと思いました。でも、誰もやったことがないのだから、逆に結果を出せば、そこが僕の強みになるはずだ、と」
 1年目はコミュニケーションを取るだけでも苦労したというけれど、2年目にはなんとチャンピオンに! 
「そのときもかなり紙一重の闘いで、最終戦にもつれ込んで、ギリギリだったんですけれど。そういうギリギリのところで運を持っているのかもしれません(笑)」
 日本では、レースに参加するのは15~25台くらい。それがヨーロッパでは約60台。レベルが高く、レース展開も激しいという。
だが海外での活動を通じて磨かれたのは、運転能力だけじゃない。レーサーに必要不可欠なコミュニケーション能力も、スキルアップした。
「レーサーにとってドライビングのセンスはもちろん必要ですけど、メカニックやエンジニアとのコミュニケーション能力も、本当に必要なものなんです。レーシングチームは車を走らせるだけのものじゃない、エンジニアやメカニックが車のあらゆるパーツを微調整して、車全体の調子を上げて、それを僕たちドライバーが運転するんです。だから車のどこをどう変えたら良くなるとか、今どこがおかしいということを的確に伝えられないと、車自体のレベルが上がらない。自分が感じた車の状態を言語化して人に伝える力、納得させる力、そしてもし間違えてしまったらちゃんと素直に謝る力も、必要になる。それができないと、本当の信頼関係は築けませんから」

  • 出演 :千代勝正 ちよ かつまさ

    レーシングドライバー。1986年12月9日東京都生まれ。2002年、15歳でカートレースデビュー。2009年から全日本F3選手権Nクラスに出場。2011年シリーズチャンピオンとなる。2012年よりSUPER GT GT300クラスへ参戦。2014年渡欧、オーストラリアのバサースト12時間で日本人初優勝。同年、ヨーロッパで開催されたブランパン耐久シリーズでも日本人初のシリーズチャンピオンに輝く。2016年からSUPER GT GT500クラスへステップアップ。以後国内外のGTレースに参戦し、活躍している。

    インスタグラムhttps://www.instagram.com/chiyokatsumasa/

    公式サイト(FBとTwitter情報あり)http://chiyo-katsumasa.com/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/