ゲームに飽き足らなくなった千代少年は、カートにハマった。あのアイルトン・セナも少年時代に熱中したという、ゴーカートのもっと本格的なヤツだ。
「カートは小さいですけど、エンジンのパワーと重さの比率、あと体感速度で考えると、F1に最も近いと言われているくらい、すごいんです。カートは重さ100キロちょっとしかないので、スピード感がすごい。実際、時速130キロくらい出ますし、地面すれすれで走るので、体感速度としてはその3倍くらいの感覚になります。横Gも体重の3倍くらいかかるしね。手っ取り早く速いスピードを体感できて、技術を磨くことができる。レーサーになるためにはカートが1番効率の良い道筋のひとつだな、と。高校生で始めました」
 だけどカートは、お金がかかる。速く走ろうとすれば、なおさらだ。
「ガソリンも減るしタイヤも減るし、練習しないと速くならない。それにエンジンもタイヤも、使い古しでは勝てないんです。やればやるほどお金がかかるので、どんなにアルバイトしても足りなくて、高校2年生から夜間高校に転校し、昼間フルで働きました。最終的には高校を夜間から通信に変更して、朝から晩までずっと飲食店や引っ越し屋のアルバイトして、土日はサーキットです」
 どうしてそんなに、のめり込んだのか。
「中学まで、あまり目標とかなくて、ダラダラ遊んでいるだけでした。夢もなくて、何をしてもすべてが中途半端だった。でもカートをやるようになったら、真剣になれて、すごく楽しかったんです」
 高校1年のとき、ローカルのカートレースで初優勝。翌年は関東大会、そこから全国大会と、千代はどんどんステップアップしていった。同時に、必要経費もどんどん増えていく。
「だんだん高額のお金が必要になってきて、高校生の僕には信じられない額になったんです。そこからカートで知り合った方に相談して、経営者の方とかいろいろな方に人づてで、スポンサーのお願いをしてまわり、資金的サポートをしていただくようになりました」
 人に頭を下げることを、高校生のときから否応なく学んだ、というわけだ。
「実は僕、最初にカートをやりにいった時、金髪だったんですよ(笑)。ダボダボのスボンを履いて、敬語も使えない、生意気なだけのガキでした。でも15歳の頃からカートを通じて大人の人たちと付き合う時間が長くて、揉まれて、運転技術だけじゃない、いろいろな社会勉強もさせてもらったんです」

  • 出演 :千代勝正 ちよ かつまさ

    レーシングドライバー。1986年12月9日東京都生まれ。2002年、15歳でカートレースデビュー。2009年から全日本F3選手権Nクラスに出場。2011年シリーズチャンピオンとなる。2012年よりSUPER GT GT300クラスへ参戦。2014年渡欧、オーストラリアのバサースト12時間で日本人初優勝。同年、ヨーロッパで開催されたブランパン耐久シリーズでも日本人初のシリーズチャンピオンに輝く。2016年からSUPER GT GT500クラスへステップアップ。以後国内外のGTレースに参戦し、活躍している。

    インスタグラムhttps://www.instagram.com/chiyokatsumasa/

    公式サイト(FBとTwitter情報あり)http://chiyo-katsumasa.com/

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 iOS

    Android版 Android

  •  

    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/