カートから四輪に乗り換えたのは、19のとき。カートの全日本選手権に出場したその場で、日産の若手育成プロジェクトの候補生として声をかけられたのだ。10人ほど呼ばれて、オーディションを経て4人の中のひとりに選ばれた。
フォーミュラーカーのレースにデビューできたのは、ちょうど二十歳の頃のこと。だけどその育成プロジェクトは、毎年成績によってはふるい落とされてしまう、シビアな世界。3年目、F3クラスにデビューした年には成績ふるわず、1回放出されてしまったという。
「その翌年、プライベートチームから出場し、良い成績を残せたので、その翌年はまた日産に復帰できました。実はけっこう崖っぷちを、何度も落ちかけながら這い上がってきた、という感じです。F3の3年目も、ホンダの若手ドライバーとチャンピオン争いをして、最終戦、奇跡的に逆転して、ようやくチャンピオンになることができました」
 その最終戦では、千代が勝つとは誰も予想していなかったという。年間16レースのポイント制。千代が勝つには、この最終戦で千代が優勝して相手が4位以下、しかも千代がレース中の最速タイムをマークするのが、最低条件だったのだ。そして千代は4位スタート、相手は1位スタートだった。
「そこである意味、ふっきれたんです。僕は高校の頃からずっとアルバイトして頑張ってきた。スポンサーを集めて借金までしてレースに出て、だからこそ勝たなきゃっていう気負いが強すぎた。空回りでミスして勝てないことが多かったんです。でもここまできたら、無理なら無理でしょうがない、と。ここで負けてプロになれなかったら、25歳、ちょうどいい節目だからこの道を諦める。このレースでそれを決めようと思ったら、その瞬間にいろんな重荷が取れて、急にゾーンに入って、不思議と良い走りができました。結果にばかりこだわっていたけれど、そうじゃなくて自分の最高の走りをしようと思ったら、奇跡的に優勝し、大逆転できました」

  • 出演 :千代勝正 ちよ かつまさ

    レーシングドライバー。1986年12月9日東京都生まれ。2002年、15歳でカートレースデビュー。2009年から全日本F3選手権Nクラスに出場。2011年シリーズチャンピオンとなる。2012年よりSUPER GT GT300クラスへ参戦。2014年渡欧、オーストラリアのバサースト12時間で日本人初優勝。同年、ヨーロッパで開催されたブランパン耐久シリーズでも日本人初のシリーズチャンピオンに輝く。2016年からSUPER GT GT500クラスへステップアップ。以後国内外のGTレースに参戦し、活躍している。

    インスタグラムhttps://www.instagram.com/chiyokatsumasa/

    公式サイト(FBとTwitter情報あり)http://chiyo-katsumasa.com/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/