4人の中で最年少なのが、長塚圭史。今回のポートレートは、自宅の書斎で撮影した。山内圭哉も大堀こういちも福田転球も〝彼がいなかったら『新ロイヤル大衆舎』は形にならなかった〟と口を揃える、リーダー的存在だ。
「なにかを始めるの、好きなんですよね。声をあげるとそこに、賛同して何かを担おうと、仲間が集まってくれる。その仲間ひとりひとりと出会ってきた、自分が歩んできた道がわかるというか」
 今回も、ユニットの旗揚げと第1回公演を発表するやいなや〝おもしろそうだね!〟と協力を申し出たスタッフがたくさんいたとか。それもどうやら、一流の人材ばかり。劇作家&演出家&俳優の彼は、いったいどんな〈歩き方〉をしてきたのだろう?
 高校生の頃から演劇を始め、生の観客がリアルに反応する、舞台の面白さに取り憑かれた。俳優として始めたが、劇作や演出で舞台そのものを作り出す作業が楽しかったという。『阿佐ヶ谷スパイダース』を主宰して次々と作品を発表。暴力もアリの過激な表現、突き放したような物語の閉じ方に人気が集まり、劇団の人気はピークへ。
「そうこうするうちに、疑問が生じてきたんです。次々と新作を打ち出す中で、過激さが薄れると、客席に物足りない空気が漂う。劇団のサイズが大きくなって、動員数を看板にしているような気恥ずかしさが生じてくる。さらに、僕個人で海外の戯曲を演出する機会を与えられて、やってみるとその戯曲がどれもすごく出来がいいんですよ。我が身を振り返って、いわゆる笑いと暴力とそれに準ずる奇想天外な展開に支えられているだけでは続けていけないと痛感したんです。そこから急に現実と幻想が入り交じるような芝居や、笑いがひとつも入っていない芝居を作ってみたら、客席は呆然とするばかりで(笑)」
 2008年、いったん活動を休止。文化庁の海外研修制度を利用して、1年間ロンドンに留学した。
「本当に疲れていたので、最初の3ヶ月は引きこもり状態でした(笑)。あるとき友だちの持っていた本の中に井上ひさしの『父と暮らせば』の戯曲があって、そこからですね、僕の脳が完全に変わったのは。イギリス人に日本のこの劇をどう見せるか、どう演じてもらうか、どうやったらこれを体現出来るのか。いろいろいろいろ考えるうちに、演劇や演出の原点に立ち戻ることができた。何も無い空間でも僕たちは劇を作れる。アイデアがあれば思いは伝わる、と。で、イギリスから戻ったら、作風が全然変わっていたんです」
 帰国後、いくつかの舞台演出を重ねながら、演劇性とエンタテイメントのバランスを見極め、自分の可能性を広げてきた。前出の大堀こういちに言わせると「長塚圭史は今になっても青臭い演劇をやろうとしている、なんか恥ずかしさと格好よさのギリギリのところをいってるところが、良い!」という。
 その姿勢の延長線上にあるのが今回の『新ロイヤル大衆舎』であり、第1回公演『王将』なのだ。
「『王将』は正真正銘、大衆演劇です。難しいところは何もない。過去の名作だけど、そこにただ乗っかるのではなく、80の客席に向かって僕らが演劇的発想をきちんと織り込んでいく。エンタテイメントの真髄をお見せできると思います」

  • 出演: 長塚圭史(ながつか けいし)1975年生まれ 東京都出身

    ホームページ  http://www.gorch-brothers.jp/modules/tinyd9/index.php?id=1

    公演情報 :『王将』

    作/北條秀司 構成台本+演出/長塚圭史 音楽/山内圭哉 2017年4月27日(木)~5月14日(日) 下北沢『小劇場 楽園』にて 3部作(1部13st/2部11st/3部11st 計35ステージ)チケット一般発売2月25日(土)10:00~
    問い合わせ先 : 新ロイヤル大衆舎   http://shinroyal.com/

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/