そしてもうひとつ、山田監督には“社長”の顔がある。

 2009年に、自らの会社「スモールホープベイプロダクション」を設立。

 「カリブ海にアンドロスアイランドという島があり、そこに実際にスモールホープベイという小さな港があるんです。その港にスモールホープベイロッジという小さなロッジがあり、旅行客はみんなそのロッジに泊まって海に潜ったりしている。そのロッジがすごく居心地がよくて、私の好きな犬もいる。港の風景もとても美しかったので、そこから社名を取りました。私の性格から言って、何かひとつの世界で大成功は出来ないけれど、自分の中の小さな希望がそれぞれに形になっていけばいいなという願いも込めて」

 今回の映画を見ればわかるが、本編の前に流れる「スモールホープベイプロダクション」のオープニング映像は、小舟に乗った女の子と犬が荒波に揉まれるシチュエーション。あわや転覆と思ったところを灯台の光が行く手を照らし出し、1人と1匹は無事に航海を続けていく。

「この数秒の映像は、まさに私の人生そのものですね。犬を人生の相棒に、常に荒波をくぐり抜けていく。実際に、犬と一緒に船で世界を旅して回ったら楽しいだろうなと考えて、小型船舶4級免許も取ったんですよ。でも、いざ犬を船に乗せてみたらカチンコチンに固まっちゃって、船旅どころじゃなかったですけど(笑)」

 山田監督曰く、自分は社長というより小型船の船長のようなもの。気ままに、風の赴くままに、新たな港を目指して旅を続ける。「人生は、いつも冒険」と語る山田監督のスリリングな船旅は、これからもずっと続いていくに違いない。

  • 出演:山田あかね

    東京生まれ。テレビ番組のディレクター、ドラマの脚本、演出、小説家、映画監督などとして数多くの作品を製作。主な作品に映画『すべては海になる』(2010年)、小説『ベイビーシャワー』『しまうたGTS』(以上・小学館)、『まじめな私のふまじめな愛情』(徳間書店)など。2012年より、犬の殺処分をテーマに単独で取材開始し、「むっちゃんの幸せ 福島の被災犬がたどった数奇な運命」(NHK総合2014年9月放送)、「生きがい 1000匹の猫と寝る女」(ザ・ノンフィクション・フジテレビ2015年3月放送)。2本目の映画監督作品となる『犬に名前をつける日』が10月31日より、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開。

    映画『犬に名前をつける日』公式サイト
    http://www.inu-namae.com/

    山田あかね監督 公式ブログ
    http://yaplog.jp/akane-y-dairy/

    取材・文:内山靖子

    ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒。在学中よりフリーのライターとして執筆を開始。以来、芸能人、作家、著名人などの人物インタビューを手掛ける。その他、書評、女性の生き方や医療、健康に関するルポなども執筆。現在は、『STORY 』『HERS』(ともに光文社)、『婦人公論』(中央公論新社)などに執筆中。著名、無名に係わらず、その人の歩んできた人生の軌跡を綴る単行本の執筆もライフワークにしている。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/