学生時代に映画を撮っていただけに、やはり自分の手で劇映画やドラマを撮りたいという気持ちが湧いてきた山田監督。だが、いくらTVディレクターとしてのキャリアがあるとは言え、いきなり劇映画の“本編”を撮るチャンスは巡ってこない。

 「じゃあ、どうすれば自分の手で映画が撮れるのか。そこで考えたのが、まず小説を書いて芥川賞を取り、それを原作にして映画を撮ればいいんじゃないかということでした。そう考えたのは村上龍さんの前例があったから。村上さんは『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を取り、その後、ご自分で監督して受賞作を映画化された。だから私も“よし、村上龍計画で行こう!”って」

 映画を撮るために、まず小説で芥川賞を取る。凡人にとっては、オリンピックの異種目でそれぞれに金メダルを取るくらいハードルの高い試みのように思えるが、チャレンジ精神旺盛な山田監督にとってはどこ吹く風。なんと初めて書いた小説で、芥川賞の登竜門と言われる文芸誌『文學界』の新人賞を受賞する。

「編集者の人からも、“ぜひ芥川賞を目指しましょう!”と励まされ、“やったー!”って感じでしたね。で、それからの5年間、映像の仕事を減らし、せっせと小説を書いていました。でも、書いても、書いても、芥川賞は取れない。今、思えば、私の小説は芥川賞向きじゃないのかもしれません。純文学志向の編集者にはさんざんダメ出しされた『ベイビーシャワー』という小説が、エンターテイメント性の強い小説を求める出版社では評価され、小学館文庫小説賞をいただくことが出来たんです」

 以降、『しまうたGTS』『まじめなわたしの不まじめな愛情』などの著作を次々に発表。そして、2005年に出版した自身の小説『すべては海になる』を原作に、山田監督は遂に劇映画を監督するチャンスを手にする。主演は佐藤江梨子さんと柳楽優弥さんという、若手実力派の顔合わせ。

「この作品で劇映画の監督という夢を叶えることが出来たので、芥川賞はもういいかなって(笑)。もちろん、作家を完全に引退したわけではありません。今回の映画の原作ノンフィクションも自分で書きおろしましたし」

 多彩に活躍する山田監督に対し、映像なら映像、小説なら小説と、ひとつの仕事に絞って集中したほうがいいとアドバイスする人もいるそうだ。

 「でも、私は欲張りなんですよ。自分がやってみたいことには、すべてチャレンジしてみたい。いくつになっても、新しいことにチャレンジするのは少しも怖くない。それが私の最大の長所であり、もしかしたら欠点なのかもしれませんけどね」

  • 出演:山田あかね

    東京生まれ。テレビ番組のディレクター、ドラマの脚本、演出、小説家、映画監督などとして数多くの作品を製作。主な作品に映画『すべては海になる』(2010年)、小説『ベイビーシャワー』『しまうたGTS』(以上・小学館)、『まじめな私のふまじめな愛情』(徳間書店)など。2012年より、犬の殺処分をテーマに単独で取材開始し、「むっちゃんの幸せ 福島の被災犬がたどった数奇な運命」(NHK総合2014年9月放送)、「生きがい 1000匹の猫と寝る女」(ザ・ノンフィクション・フジテレビ2015年3月放送)。2本目の映画監督作品となる『犬に名前をつける日』が10月31日より、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開。

    映画『犬に名前をつける日』公式サイト
    http://www.inu-namae.com/

    山田あかね監督 公式ブログ
    http://yaplog.jp/akane-y-dairy/

    取材・文:内山靖子

    ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒。在学中よりフリーのライターとして執筆を開始。以来、芸能人、作家、著名人などの人物インタビューを手掛ける。その他、書評、女性の生き方や医療、健康に関するルポなども執筆。現在は、『STORY 』『HERS』(ともに光文社)、『婦人公論』(中央公論新社)などに執筆中。著名、無名に係わらず、その人の歩んできた人生の軌跡を綴る単行本の執筆もライフワークにしている。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/