朝から撮影が行われていたらしく、私は夕刻に来い、と指示されていた。

「おじゃましまーす」

 だだっ広い事務所のガラスのテーブルの前に可愛い女の子が座っている。

 これが岡愛恵ちゃんか。想像していたよりずっと若い。昨日まで学生でしたと言われてもおかしくはない。彼女はショートパンツの私服だったのだが、何やら萩庭桂太は目線が落ち着かず、動揺している。

「森さん、ちょっ、ちょっと前から見て」

「うわっ、見えてるー」

 そのベージュのレースのショーパンはとてもカワイイのであるが、その先にどうも下着っぽいものが見えたのである。私は焦った。同性のはしくれとして、それにこんな若いお嬢さんのあられもない姿にはもはや母親の心境になってしまうのである。おかあさんとしてひとこと言っておかねば。

「電車のなかで座らないほうがいいよー」

「えーっ。違うんですよ。ちゃんとその上にもう一枚履いてるんですよ」

「……」

 ほんまに今時の若い女は。白はあかんやろ!

「まあ、いいよ。日本は平和だってことだよ」

 と、萩庭桂太は妙な屁理屈をつけてニヤニヤしている。心が中2な彼としては、もうそれだけで今日は天にも昇らんとする表情である。無視してインタビューすることにした。

「何歳なんですか」と尋ねると「23です」と元気な返事が返ってきた。

 名古屋出身。高一のとき、学校帰りにスカウトされたんだという。

「そのときは名刺をもらっただけで、それから一週間後に偶然栄通りで同じ人に会ったんです。友達と一緒にいたんだけど『今、逃げたでしょ』って言われました。私は当時はガリ勉で、メイクもしてないようなコでした。スタイルも162センチで39キロしかなくてガリガリだったし。芸能界にはなんの興味なくて、自分とは別の世界だと思っていました」

 その証拠に、高校に入って彼女が真っ先にやりたかったことは野球部のマネージャーだったんだという。

「『タッチ』のみなみちゃんを想像してたんです。洗い物とかするのかと思っていたら、真夏に真っ黒になって球拾いとかするんですよー。だいたい、野球のルールも知らずに入っちゃったんですけど」

 育ちがいいんだろうな、と思った。自分が「こうしたい」と思うことになんのためらいもなく飛び込んでいくコなのである。

「モデルとしてスカウトされてからは、月曜は演技、火曜はウォーキング、水曜はメイク、木曜はダンスと毎日習い事をしていました」

 そのかいあってか、モデルとしてはたくさんのオーディションに合格していった。大手学習塾、学生服。京都のきもの。高校を卒業し、東京での仕事にも進出。

「いい子ちゃん系の仕事が多かったですね。東京のモデルさんの話を聞くたびに、いろんな仕事をやりたいなあ、と思っていました。それで、東京の事務所に所属しようと思っていた頃、父も仕事で転勤になり、母、妹と、みんなで東京に出てきちゃったんです」

 それはよかった。安心だ。東京は悪い人だらけだからねえ、と私は目の前のカメラマンを見た。(取材・文:森 綾)

  • 出演:岡愛恵(おかめぐみ)

    1988年9月30日生まれ。愛知県出身。T166 B80 W59 H86 S23.5。
    これまで、任天堂「Wii Fit」、毎日コミュニケーションズ「マイナビ2010」、ドミノピザ、伊藤園、TULLY’S COFFEE「バリスタのプライベート」篇、NTT docomo など、多くのCMに出演。
    http://www.catamaran2007.co.jp/profile/oka.html

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。
    映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太