それにしても。宮本文昭という音楽家は、実によくしゃべる。
 いわゆるアーティストとして自分の表現方法を持っている人は、インタビューの現場では、言葉が少ないことが多い。自分のフィールド以外でアウトプットする習慣がないのか、内に秘めた情熱を言葉に置き換えることが難しいのか、雄弁な人はさほど多くない。でも宮本は、何かを聞くとそれにまつわる話を次から次へ、話してくれる。そしてその話が、超絶面白いのだ。
「たぶんそれは、ドイツに行ったから、でしょうね。ある程度は日本で勉強していたけれど、最初はドイツ語を、全然話せなかったんです。挨拶とか買い物程度はできたけど、込み入った会話はなかなかできなかった。そこで僕がやったのは、自分の実況中継を頭の中でドイツ語にしてみる、ということでした。たとえば自炊していたから料理をしながら、今、野菜を切ります、大きさはこれくらい、次は~って。そうやっているうちに、だんだん自在に話せるようになったんです。同時に、言葉って大切だなって、痛感するようになりました。 
 肝腎なのは、文法です。言葉の構造なんです。というのも、ドイツ人が書いた曲は、ドイツ語の文法と構成が似ているんですよ。主語で始まり、目的語が入り、そこにコンマが入って説明文が入る。またコンマが入って、やっと動詞がきて、文章全体が成立する。ドイツ語圏の音楽のフレーズに、そういうのはいっぱいあるんです。ドイツ語が完全にマスターできていないと、バッハのカンタータみたいな曲は、ちゃんと吹けません。そういうのがとても大事なんです」
 今では、生粋のドイツ人も驚くほど自然なドイツ語を話す。通訳はほとんど必要ないという。
「でも、弊害もあってね。そのクセが日本語を話すときにも直らなくて、何かを説明するとき、説明過多になってしまうんです。コレを説明するときに、コレだけ説明するんじゃなくて、コレを取り巻く周辺のことまで全部説明しないと、気が済まないんです。だからずーっとしゃべってる。うるさい男なんです、困ったもんだね(笑)」