藤井道人は2014年、初監督作品（長編）『オー！　ファーザー』で一躍注目を集めた。もともと脚本家志望の藤井はこの作品の脚本を書いて原作の著者・伊坂幸太郎に認められ、脚本家デビューが決定。するとクランクインの半年前、予定していた監督が降りてしまい、急遽藤井に〝監督もやってみないか？〟と話が回ってきたという。インディーズ映画の監督は経験していたので臆せず挑戦してみたら、できあがった作品は注目を浴びた。
「でも、ルーキーとしての洗礼を存分に受けました。現場では、監督として現場の指揮を執るということができなかった。当時26歳の藤井道人は、カメラマンとか俳優とかスタッフが、みんなプロだからやってくれる、と、どこかで思っていたんです。もちろんその人たちが頑張ってくださったので良い作品になったと思うんですけど、真ん中に立つべき僕がこういうものを作りたい、という明確なイメージをもっとちゃんと持つべきだった。だからこの実力のまま映画監督って名乗っちゃダメだ、もう一回ゼロから勉強しなおそうと思って、この５年間くらい、インディーズで自主映画からやり直しました。自分の世界観だったり、自分のドラマツルギーの強度を上げていくという作業のために、ドラマも映画もＣＭもなんでもいいからとりあえずいっぱいやろう、という５年間でした」
　せっかく特別快速の列車に乗れたのに、あえて飛び降り、各駅停車に乗り換えたような。
　撮影に照明に衣装、録音と美術、そして俳優たちと、たくさんの個性的な人材をひとつにまとめあげるのも、監督の仕事。先頭で号令をかける一方、細やかな気配りも必要で、ひと筋縄ではいかない、むずかしい仕事なのだ。
　５年間の修行のおかげで映像制作の地力がつき、『デイアンドナイト』の撮影は順調に進んだという。
「僕は才能が無いことが、僕の一番の才能だと思うんです。僕にはこれがやりたい、というイメージはあるけど、それを実現する力がない。するとそこに有能なカメラマンや素晴らしい役者が集まってくれて、すごいスタッフたちも駆けつけてくれて、その人達が〝これで、どう？〟って言ってくれる。僕はそれを見て、〝いや、なんか違うんですよねー〟って言う。するともっとすごいモノができあがる。そうやってみんなが助けてくれるのが、強いていえば僕の監督力なのかな、と(笑)」