インタビュー当日、小松美羽は腕の中に黒くて小さい生き物を抱いていた。目も鼻も全身真っ黒クロの、愛犬の月(中国語読みで「ゆえ」)、生後10ヶ月のチワプー(トイプードルとチワワのミックス、プーチーとも言う)だ。
 小松と犬は、因縁が深い。幼い頃、生まれ育った長野県坂城町で、〈山犬さま〉に守られていたという。近くに千曲川が流れ、山の自然にも恵まれたエリアで、濃い茶色の、中型犬くらいの大きさの山犬は、時おり姿を現した。夢中になって遊んでいて、気が付いたら日が暮れて帰り道に迷ってしまう、そんなときには必ずその山犬が現れて、家までの道案内をしてくれた。
中学生になったある雪の日、久しぶりに出てきたその犬に導かれるようにして家に帰る途中、ふと、気が付いた。雪道の先を行く山犬の、その足元には、足跡がついていない。「あっ」と思わず声をあげると山犬はその場でクルクルと回り、姿を消してしまったという。
それが原体験となって、小松は〈狛犬〉に心惹かれるようになった。
「その山犬は、家の近所の坂城神社の狛犬を依り代にしているんじゃないかと思ったんです。そこから狛犬に興味を持ち始めて、調べていくうちにだんだんそういう、神獣とか守護獣とかスピリットさんたちが気になり始めました。アダムとイヴがいなくなったエデンの園を守る守護獣ケルビム、エジプトのスフィンクス、ヨーロッパに伝わるガーゴイルとかグリフォン、中国の獅子や龍や麒麟、タイのシンハー、沖縄のシーサー、みんな、どこかで繋がっているような気がするんです。魔を払うためにあえて怖い顔をしている、でも人間を守ってくれる優しい存在です」
 今、小松の腕に抱かれている小さな犬も、カメラを向ける萩庭氏を警戒しているのか威嚇するつもりか、ガルルルとうなったり、ワンワン吠え続けている。
「あ、別にこの子は、可愛いから飼い始めただけです。まだ子犬で吠えグセがあるんですけど、1歳くらいになるまでに、吠えないようになってほしいな、と(笑)」

  • 出演 :小松美羽  こまつ みわ

    1984年11月29日長野県坂城町出身。女子美術大学短期大学在学中に銅版画作品の制作を開始。20歳の頃の作品『四十九日』が高く評価される。近年はアクリル画、有田焼などに制作領域を拡大し、神獣などをテーマに精力的に創作に打ち込む。2014年庭園デザイナー石原和幸氏と共作でロンドン「チェルシーフラワーショー」へ有田焼の狛犬作品を出品、ゴールドメダルを受賞した庭園「江戸の庭」の守護神として置かれた「天地の守護獣」が大英博物館へ収蔵された。ワールドトレード・センター(ニューヨーク)への常設展示、台湾・香港での個展、シンガポール、ダラスでライブ・ペイントを行うなど、多方面で国際的に活躍している。

  • (株)風土 HP・http://miwa-komatsu.jp/

  •  【画集】
    4年振り2冊目の画集が発売。12月5日より日本橋三越で先行販売。12月17日より書店、アマゾンで発売予定。現在予約可能 http://www.kyuryudo.co.jp/shopdetail/000000001537/

    【展覧会情報】
    『小松美羽展 大和力を、世界へ』
    2018年12月5日(水)~16日(日)午前10時~午後7時 ※最終日は午後6時閉場 
    日本橋三越本店 新館7階 催物会場
    小松美羽サイン会/12月8日(土)9日(日)15日(土)16日(日)各日午前11時~(限定100名)会場内にて。

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/