もちろん、私がやる、と言ったからすぐに弁士になれたわけではない。松田クンの父・春翠の遺した『血煙高田の馬場』をテキストにして完コピし、その出来映えに夫の松田クンも納得。準備万端で2011年、弁士デビューを飾った。
「実は福島公演が行われた2年後、あの東日本大震災があったんです。その数か月後に慰問公演をしようと思ったけれど、ノーギャラだし、人も足りない。なんとかして生で弁士を見ていただきたくて、そこで初めて私がお客さまの前でやりました」
 以来、回を重ねるにつれてハルキの腕はあがり、ファンも少しずつ増えた。今はマツダ映画社を離れ、ふたりで立ちあげたオフィス・アゲインで、あちらこちらで上映会を開いている。『瞼の母』『椿姫』『瀧の白糸』、小津安二郎の『生れてはみたけれど』や『浮草物語』、ロイドやキートン、『第七天国』などなど、映画史上に残る名作を次々と上映している。
 ハギニワ氏いわく、「スクリーンから声が聞こえているような気がした」と。
「そう言われるのが1番嬉しいですね。私はよく、七色の声を使っているとか言っていただきますけれど、実際のところはそんなに変えてないと思うんです。みなさんスクリーンに集中して、目と耳でご自身のイマジネーションをどんどん広げてくださっているから、そう感じるんでしょうね」
 同窓会婚をきっかけに、活動弁士へと転身。それにしても、ドラマチックだ。
「いろんな人に、無声映画というものがあって、活動弁士という存在がいる、ということを、知って欲しい。ライブで見るとけっこう面白いよって、伝えたいです」

  • 出演 :ハルキ  はるき

    会社勤務を経て、2005年より無声映画公演のスタッフとして活動を開始。公演プロデュースも担当する一方、16㎜映写機・伴奏音楽のオペレーションを担当。映画説明(活動写真弁士)の習得に努め、2011年7月、活動弁士としてデビュー。2012年1月より2013年1月まで無声映画鑑賞会に出演。2013年7月「活動弁士 ハルキによる無声映画公演」をプロデュースするオフィス・アゲインを夫の松田豊とともに設立。

    【公演情報】
    10月21日(土)午後5時開演 花畑記念庭園・桜花亭 『瞼の母』
    11月2日(木)午後7時開演 岡谷スカラ座『ロイドの要心無用』 ピアノ演奏:新垣隆
    11月5日(日)時間未定 川越スカラ座 『散り行く花』 ピアノ演奏:新垣隆
    上映会情報はHPに掲載中。

    HP http://www.office-again.net/

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/