ハルキが結婚した松田クンは、最後の活動弁士と呼ばれた松田春翠の息子。父親が遺したサイレント映画コレクションを活かし、各地で上映会を開催するマツダ映画社の一員として働いていた。とはいえ、ハルキは派遣社員ながら大手企業の重役秘書として働き、夫の仕事とは無関係。年に1回開催していた大きな上映会を手伝う程度、それも裏方ばかりで、その場にいても映画を見る暇も、弁士の口上を聞くこともなかったという。
 その後事情がいろいろ変わり、夫の松田クンがマツダ映画社をひとりで引き継ぐことになった。
「じゃあ私が手伝わなければならない、と思ったんですね。私ができることはなんでもやるから、じゃあ一緒にやりましょうって」
 経理を担当し、会報やホームページを作ったり、上映会の裏方を頑張った。
「首にタオルを巻いて荷物をえっちらおっちら運んだり、スクリーンを建てたり、そんなことばかりやって、その時もまだ、ちゃんと無声映画も活弁も、見ていなかったんです」
 福島県で7都市キャラバンを遂行することになり、そこで初めて客席の後ろから、無声映画と活動弁士に向き合った。何回も同じ演目を見るうちに、ハルキの心の中に、ある思いがふつふつと生まれる。
「ああ、私だったら、ここはこういうセリフは言わないなって、思っちゃったんですよね。活動弁士は、映画の中の字幕はそのまま語ります。ストーリーも勝手に変えることはできません。でも余白の部分、何もない部分は弁士自身が台本を書いて語るんです。だから弁士によってかなり作品のニュアンスが変わる。自分がやりたいようにやれるので、私だったら絶対、ここはこういうふうに言わないのになぁ、と」

  • 出演 :ハルキ  はるき

    会社勤務を経て、2005年より無声映画公演のスタッフとして活動を開始。公演プロデュースも担当する一方、16㎜映写機・伴奏音楽のオペレーションを担当。映画説明(活動写真弁士)の習得に努め、2011年7月、活動弁士としてデビュー。2012年1月より2013年1月まで無声映画鑑賞会に出演。2013年7月「活動弁士 ハルキによる無声映画公演」をプロデュースするオフィス・アゲインを夫の松田豊とともに設立。

    【公演情報】
    10月21日(土)午後5時開演 花畑記念庭園・桜花亭 『瞼の母』
    11月2日(木)午後7時開演 岡谷スカラ座『ロイドの要心無用』 ピアノ演奏:新垣隆
    11月5日(日)時間未定 川越スカラ座 『散り行く花』 ピアノ演奏:新垣隆
    上映会情報はHPに掲載中。

    HP http://www.office-again.net/

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 https://itunes.apple.com/us/app/yeo-xie-zhen-ji-shi-lian-zai/id1188606002?mt=8

    Android版 https://play.google.com/store/apps/details?id=com.alphawave.yeo_android&hl=ja

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/