『ビリー･エリオット～リトル･ダンサー～』がこんなに高く評価されているのは、単なるドリーム･カム･トゥルーの夢物語ではなく、リアリティ満載のシリアスな物語だから。舞台は1980年代半ば、不況の真っ只中にあるイギリス北部の炭鉱町。ビリーの父と兄のトニーは炭鉱労働者で、炭鉱閉鎖に反対してストライキを計画中だ。
ビリーはバレエという夢を見つけてそこから抜け出そうとするけれど、兄のトニーは夢を見つける余裕もないまま地元で働き始めて大人になった。そう簡単に弟のビリーを応援する気持ちになれない、微妙で複雑な役どころだ。
演じるのは、藤岡正明（中河内雅貴とＷキャスト）。2005年の『レ･ミゼラブル』以来、10年以上舞台に立ち続けている、ミュージカルの常連。ストレートプレイでも活躍している。18歳のとき、ＴＶのオーディション番組（テレビ東京『ASAYAN』）で最終候補に残り、歌手デビュー。とはいえ、歌手を目指していたわけではないそうで。
「友達の付き添いで行ったオーディションで、たまたま残ってしまったんです。本当は作曲家とかプロデューサーとかシンガーソングライターとか、自分から発信するアーティストになりたかったんですけどね」
　シンガーソングライターとして活動を続ける中で、ミュージカルに誘われた。俳優になったのも、たまたまなのだ。
「役者になるなんて1ミクロンも思ったことがなかったので、絶対無理だと思っていたんです。ミュージカルに初めて出たときは、戸惑いがありました。演出家とかいろんな人からあれこれ口を出されるのがうっとうしかった(笑)。でも自分が表現する場を与えられて、お客さんがそれを観て喜んでくれて、それで生活することができる。今はそのことにプライドを持っています。30歳までに歌で世界デビューするんだって、自分ひとりで決めていた時代もありましたけど(笑)、そうじゃない可能性も受け入れられる、余白の部分も必要だと今は思っています。だから人生は面白いのかなってね(笑)」
　当初は苦手だったダンスも、その都度舞台で鍛えられ、今ではなんなくこなす。
「いや、でも、今回のビリーたちを見ていると、とんでもないですね(笑)！　僕なんてミュージカルの世界に12年いるけど、ピルエットなんて1回転がいいとこ。でも彼らはすごく水準が高いんです。たった1年のレッスンであそこまで行けるのだから、この先も日本のミュージカルを牽引してくれるんじゃないかな」
　藤岡自身も、この先さらに成長する予定。
「今回、ビリーの父親役の吉田鋼太郎さん、益田徹さんとご一緒するのが楽しみです。もちろん、この舞台を自分なりに演じるのが第一ですけど、この先、映像の仕事にも興味があるので、じっくり見て、勉強させていただこうと思っています」