#3 二十代は、怒りで生きていた。
服飾作家 加藤千晶
- Magazine ID: 3527
- Posted: 2017.05.24
「20代の私は、怒りで生きていたんです。アパレル業界は、職人さんたちを大事にしないんですよ。縫製とかを請け負っているのは小さな会社が多くて、でもみんな一生懸命よいものを作る努力をしているし、無理なお願いをしても頑張ってくれる。その人たちがいるから、ものが作れるんです。でも値段を決めるのは発注元のアパレル会社だったり、間に入る商社だったり。本来横並びの関係であるはずなのに、上下関係なんですね。それを知ったときに、違和感と怒りしかなくて。でも20代の私がそんなことを言っても、誰も耳を貸してくれない。同じ価値観の人はいなくて、逆に〝おまえはどっちの味方なんだ〟って」
利益優先でものを生産していると、コスト削減は最も簡単にして有効な手段。最初から大手アパレルのデザイナーだったら、そこまでは思いが至らなかったかもしれない。服を作る現場を知っているからこそ、加藤は義憤にかられた。
「一番お世話になっている職人さんたちが食べていけない現状がある。すごい技術を持っていたり、継承しているのに、いっこうに楽にならない。こんな苦しい仕事、誰にも継がせたくないといって、閉めてしまう会社も多い。倒産してしまう会社もありました。すると、その部署の人たちがいっせいにその会社に向かうんです。心配して、じゃありません。差し押さえと回収のためです。それを見たとき、泣けてきました。吐き気がしました。人として、どうなんだろう? って。きれい事かもしれないけど。
でも、私には何もできない。毎日怒っていて、20代後半の数年は近所のボクシング・ジムに通っていました。本当に腹が立つと〝どいつもこいつも!〟って血の気が多いので、行き場のない怒りをガス抜きするために、です(笑)」
その頃、デザイナーとしても、加藤は行き詰まりを感じていたという。
「コピー戦争が始まったんです。もともとアパレル業界にそういう傾向はあったのですが、ミラノコレクションやパリコレクションの情報が入って来ると、いっせいにそのコピーまがいの服を作り始める。私はたたき上げなので、オリジナリティがないと意味がないと思うのですが・・・・。その結果、どこのブランドも同じようなものを作るようになって、ブランドの数ばかり増えていきました」
さらにそこへ、ファストファッションという大きな波が襲ってきた。シンプルで低価格、大量生産の服。〝これがいい〟ではなく〝これでいい〟服が、あっという間に拡がった。
「ことごとく、メイドインジャパンは駆逐され、中国にもっていかれました。機元、染め屋さん、加工屋さんとかいろいろなところが、縮小、倒産です」
ブランドのデザイナーとして腕を振るっていた加藤は、思った。
もう、ここにはいられない。
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出演 : 加藤千晶 かとう ちあき
服飾作家 1978年生まれ、三重県四日市市出身。バンタンデザイン研究所を卒業後、アパレルデザイナーの経験を約10年積み、2007年フリーランスになる。2009年デザインオフィス「a.ladonna.」設立。服だけにとらわれないさまざまなジャンルとコラボレーションしながら作品やイベントを創り出している。アーティストのステージ衣装やウエディングドレスのオーダーメイド、衣装のアレンジ、リメイクも多数手がけている。
ホームページ a.ladonna http://a-ladonna.com/“a.ladonna.-sale” SHOP http://aladonna.fashionstore.jp
“a.ladonna.-rental” SHOP http://aladonnarent.thebase.in
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取材/文:岡本麻佑
国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/