何かを始めるとき、きっかけはさまざまだ。偶然もあれば、成り行きもある。平尾祐紀子がハープを始めたのは、ハープという楽器の美しさに魅せられたからだという。

「11歳のとき、小学校の友人の家に遊びに行ったら、ハープがあったんです。なんて素敵なんだろう! と、ひと目惚れでした。その友人がハープを習うことになり、私も一緒に習い始めることになって、嬉しかったですね」

 以来レッスンを欠かさず、愛知県立芸術大学音楽学部でハープを専攻。さらにオランダに留学して、腕を磨いた。帰国後は地元金沢でハープ奏者として活動していたが、昨年メジャーレーベルからデビューCDを発売したのを機に、東京へ。各地でコンサートやライブを重ねている。

 ところがそのライブ、美女がハープを奏でる、癒やしのひとときかと思いきや、それだけではないのだ。ロングドレスに身を包み、優雅に演奏するのは定石通り。だけど2時間近いパフォーマンスのうち、約半分は彼女のトーク。ハープという楽器の特徴や個性を解説したり、演奏する曲の聴きどころを教えてくれたり。日本の曲やピアノ曲など馴染みのある曲目も多く、しかも合間合間にギャグやぶっちゃけ裏話も飛び出して、どんどん盛り上げていく。

「最初の頃は王道のハープ曲だけ弾いていたんですけど、ハープで有名な曲はせいぜい1~2曲ですし、馴染みのない曲だとお客様がみんな、すごくつまらなそうに聴いているんですよ。〝あー、早く終わらないかな〟みたいな(笑)。『これはアカン!』と思って、親しみのある曲をアレンジして弾くようになったら、お客さんの反応もよくなりました。それに話すことによってお客さんとの距離感が縮まるので、試行錯誤しながら、トークを磨いてきたという感じです。もちろんハープという楽器の品の良さは落としたくないんですけど、演奏会全体の印象は、楽しかった、面白かったと言っていただけるようなものにしたいんです。最近は、今日は何回受けたかな、とか、今日はツカミがいいぞとか、芸人さんみたいな感覚ですね(笑)」

 優雅で上品なハープの世界を、サービス精神たっぷりに面白く紹介してくれる、新たなるミューズの誕生。今週のYEOはハーピスト・平尾祐紀子のあれこれを、金曜日まで毎日更新でご紹介。お楽しみに、ポロロン♪。

  • 出演:平尾祐紀子(ひらお ゆきこ)

    金沢市出身。愛知県立芸術大学音楽学部ハープ専攻を経て、同大学音楽研究科修士課程修了。オランダ、マーストリヒト音楽院修士課程修了。第8回北陸新人登竜門コンサートにて、オーケストラ・アンサンブル金沢と共演。国内のコンクールにも多数入賞。帰国後、金沢と名古屋でリサイタルを開催。さまざまなオーケストラとソリストとして共演する一方、ソロや室内楽、オーケストラ客演、現代作品の初演、後進の指導など幅広く活躍している。2016年11月アルバム『華音』をリリースした。

    デビューアルバム『華音 KANON』

    グランドハープとサウルハープ、2種類のハープで演奏した16曲を収録。パッヘルベル『カノン』、ドビュッシー『亜麻色の髪の乙女』、いずみたく『見上げてごらん夜の星を』、アイルランド民謡『サリー・ガーデン』など幅広いジャンルの曲が楽しめる。

    オフィシャルサイト http://harp.yukikohirao.com/
    撮影協力 南麻布セントレホール

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/