5年間の劇団員生活は、彼女を強くした。

「はい! それはもう、鍛え上げられました。なによりメンタルが強くなりました」

 ネクスト・シアターでは日々の厳しさに、退団を余儀なくされる人も多かったという。二期生募集に合格した12人のうち、残ったのはたった4人。立ちあげ当時から在籍する人たちと四期生まで合わせて27人のメンバーは、公演が近づくと役を手に入れるため、みなライバルとなる。

「蜷川さんは、『この集団は仲間じゃないからな』と最初におっしゃいました。メンバー27人のうち女性は9人いて、芝居に女性の役がひとつしかないと、みんなバチバチ、役の奪い合いです。私はそれまで、自分が自分が、と前に出て行くのが苦手だったんですけど、そんなこと言っていたらいつまでたっても役なんてもらえない。残っていくためにはひとりで闘うガッツと孤独に耐える力、そして周囲に流されない強さが必要でした」

 そんな中、長内映里香はチャンスを手にした。有名俳優も外部から参加するプロデュース公演で、オーディションを経て役をつかみ取ったのだ。

「必死でした。とにかくこの役を取ろうと思って頑張ったんです。でも稽古に入ったら、蜷川さんが要求することがまったく出来なかった。私はやっているつもりでも、違う、違うの繰り返しで、とうとう役を降ろされてしまったんです」

 これは、凹む。さぞかし悔しかったことだろう。

「それまでの私だったら逃げ出していました。でも、ここで逃げたら負けだと思って、その降ろされた芝居の稽古場に、次の日から見学に通ったんです。すると蜷川さんがこっち来い、と呼んでくれて、こう言われました。『お前は良くも悪くも育ちが良い、お嬢様育ちだから、もっともっと痛い目を見ないとダメなんだよ。今回、嫌な思いをしただろ? それでいいんだ。そういうのをたくさん経験して、それを今後の芝居に生かせばいいんだ』って」

 演技だけでなく、生き方までも指南する。蜷川流、英才教育だったのかもしれない。

「実は私も1度、本気で辞めよう、1回リセットしようと思った時期があって。でも気を取り直して、ネクスト・シアターでまた頑張ろうと決めたことがあったんです。その時以来、他人と自分を比べるのを止めました。するとなんだか、お芝居をすることが楽しくなってきた。怖い物がなくなって、何でも来い、という気持ちになれたんです。並大抵のことが起きてもへこたれない、耐えられる自信がつきました。蜷川さんが教えて下さったことは、役者としての私の核になっているような気がします」

今年5月、その蜷川幸雄氏が逝去。間もなく彼女は、ネクスト・シアターを後にした。

  • 出演:長内映里香(おさない えりか)

    1989年9月9日生まれ。兵庫県出身。2011年から2016年春まで『さいたまネクスト・シアター』に所属。蜷川幸雄演出作品に数多く出演してきた。ドラマ・CMなどで活躍中。アベニール所属。
    オフィシャルサイト http://avenir-dr.pw

    twitter https://twitter.com/osachaaan9

    instagram http://www.instagram.com/erika_osanai

    衣装協力:元町RUKA

    オフィシャルサイト http://ru-ka.com/access/

    ヘア&メイク:渡辺真由美(GON.)

    スタイリスト:BALENCIAKO

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/