#4 蜷川幸雄に鍛えられた5年間
長内映里香
- Magazine ID: 3418
- Posted: 2016.11.24
5年間の劇団員生活は、彼女を強くした。
「はい! それはもう、鍛え上げられました。なによりメンタルが強くなりました」
ネクスト・シアターでは日々の厳しさに、退団を余儀なくされる人も多かったという。二期生募集に合格した12人のうち、残ったのはたった4人。立ちあげ当時から在籍する人たちと四期生まで合わせて27人のメンバーは、公演が近づくと役を手に入れるため、みなライバルとなる。
「蜷川さんは、『この集団は仲間じゃないからな』と最初におっしゃいました。メンバー27人のうち女性は9人いて、芝居に女性の役がひとつしかないと、みんなバチバチ、役の奪い合いです。私はそれまで、自分が自分が、と前に出て行くのが苦手だったんですけど、そんなこと言っていたらいつまでたっても役なんてもらえない。残っていくためにはひとりで闘うガッツと孤独に耐える力、そして周囲に流されない強さが必要でした」
そんな中、長内映里香はチャンスを手にした。有名俳優も外部から参加するプロデュース公演で、オーディションを経て役をつかみ取ったのだ。
「必死でした。とにかくこの役を取ろうと思って頑張ったんです。でも稽古に入ったら、蜷川さんが要求することがまったく出来なかった。私はやっているつもりでも、違う、違うの繰り返しで、とうとう役を降ろされてしまったんです」
これは、凹む。さぞかし悔しかったことだろう。
「それまでの私だったら逃げ出していました。でも、ここで逃げたら負けだと思って、その降ろされた芝居の稽古場に、次の日から見学に通ったんです。すると蜷川さんがこっち来い、と呼んでくれて、こう言われました。『お前は良くも悪くも育ちが良い、お嬢様育ちだから、もっともっと痛い目を見ないとダメなんだよ。今回、嫌な思いをしただろ? それでいいんだ。そういうのをたくさん経験して、それを今後の芝居に生かせばいいんだ』って」
演技だけでなく、生き方までも指南する。蜷川流、英才教育だったのかもしれない。
「実は私も1度、本気で辞めよう、1回リセットしようと思った時期があって。でも気を取り直して、ネクスト・シアターでまた頑張ろうと決めたことがあったんです。その時以来、他人と自分を比べるのを止めました。するとなんだか、お芝居をすることが楽しくなってきた。怖い物がなくなって、何でも来い、という気持ちになれたんです。並大抵のことが起きてもへこたれない、耐えられる自信がつきました。蜷川さんが教えて下さったことは、役者としての私の核になっているような気がします」
今年5月、その蜷川幸雄氏が逝去。間もなく彼女は、ネクスト・シアターを後にした。
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出演:長内映里香(おさない えりか)
1989年9月9日生まれ。兵庫県出身。2011年から2016年春まで『さいたまネクスト・シアター』に所属。蜷川幸雄演出作品に数多く出演してきた。ドラマ・CMなどで活躍中。アベニール所属。
オフィシャルサイト http://avenir-dr.pwtwitter https://twitter.com/osachaaan9
instagram http://www.instagram.com/erika_osanai
衣装協力:元町RUKA
オフィシャルサイト http://ru-ka.com/access/
ヘア&メイク:渡辺真由美(GON.)
スタイリスト:BALENCIAKO
取材/文:岡本麻佑
国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/