大学4年、周囲のみんなが就活にいそしむ頃、長内映里香は女優になろうと心に決めた。

「映画とかドラマとか、第一線でずうっと出ている俳優は、だいたい舞台出身者が多いなと未熟ながら思っていて、だったら私もまず舞台で力をつけようと思ったんです。年齢を重ねてもずっと出ていられる、生き残れる役者になりたいと思ったので。で、〝演劇といえば蜷川幸雄かな〟と安易な発想で検索したら、たまたま2011年の1月に〈さいたまネクスト・シアター〉二期生募集という記事を発見したんです」

 ネクスト・シアターは演出家・蜷川幸雄が主宰してきた、無名の若手俳優を集めた劇団。あの世界のニナガワに直接指導を受けられる、演劇を志す人間にとっては最高に贅沢な場だった。2008年に立ちあげたときには、1225人の応募者の中から44人が採用されている。
 長内映里香は書類選考を経て実技試験を勝ち抜き、三次の面接もパス。517人の応募者から選りすぐられた12名の合格者の中にいた。

「以来ずっと、ネクスト・シアターをベースに生活してきました。蜷川さんの作品は年に10本くらい芝居が上演されるんですけど、そのうちの1~2本がネクスト・シアターの舞台。実力を評価してもらえれば、有名な俳優たちが出演するプロデュース公演にも呼んでもらえるチャンスがあるんです」

 とはいえ蜷川幸雄といえば、厳しい演出方法で知られた人。演技が気に入らない役者には灰皿を(当たらないように)投げつけることで有名な、過激な演出家だ。

「はい、5年間ずっと怖かったです(笑)。最初に言われたのは〝自分を疑え〟ということ。今の自分が与えられている環境や経験だけで満足してしまったら、世界が狭くなる。常にアンテナを張って自分にも疑いの目を持って、本当にこれでいいのか、本当にそうなのか、その感覚に嘘はないのか、自分でジャッジし続けろ、と。この世の中にも自分にも、当たり前なんて、ないんです。いつどうなるかわからないという気持ちで生きることの大切さを、最初に叩き込まれました」

  • 出演:長内映里香(おさない えりか)

    1989年9月9日生まれ。兵庫県出身。2011年から2016年春まで『さいたまネクスト・シアター』に所属。蜷川幸雄演出作品に数多く出演してきた。ドラマ・CMなどで活躍中。アベニール所属。
    オフィシャルサイト http://avenir-dr.pw

    twitter https://twitter.com/osachaaan9

    instagram http://www.instagram.com/erika_osanai

    衣装協力:元町RUKA

    オフィシャルサイト http://ru-ka.com/access/

    ヘア&メイク:渡辺真由美(GON.)

    スタイリスト:BALENCIAKO

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/