7月末の某日。朝7時から温度計は29度という日だった。

 照りつける多摩川の河川敷で、柿澤勇人さんの撮影を行うという。

 なぜ。なんのために。…という問いかけはこの連載には無用である。なんせすべてが思いつきで、意味があったりなかったりするからだ。

 しかしどうやら、柿澤さんは昔、サッカーをしていたことがあるらしい。

「おはようございます」

 愛車で颯爽と現れた彼の私の第一印象は、今どきの「綺麗男(キレオ)」と言われる男のコであった。ニキビなどどこにも見当たらないつるんとした肌。ぴしっと整えられた眉毛。色を入れて丁寧に整えられた髪。

 芸能人だから仕方がないが、鏡ばっかり見てるんじゃないかな。……勝手な詮索で、なんとなく「化粧ポーチもってるタイプですか」と聞くと「いや、もってません」と首を振った。「あぶらとり紙も?」と、私はしつこい。どうも年をとると先入観が強くなっていけない。

 柿澤さんは控えめに、でもきっぱり言った。

「そんなんじゃないっす」。

 どうやら見た目よりは気骨のある人なのかもしれない……。

 我々は彼の車に同乗させてもらい、河川敷の近くまで行って降りた。

 「暑~」と言ったのはマネージャーさんと私で、柿澤さんは淡々としていた。

「部活はこんなでしたからねえ」

 そう言いながらも、みるみるそのきれいな顔に汗が滴り落ちた。

  • 柿澤勇人

    1987年神奈川県生まれ。勇人と書いてはやと、と読む。幼少時からサッカーに打ち込み、名門・都立駒場高校にスポーツ推薦で入学。しかし高1のときに観た『ライオンキング』に衝撃を受け、卒業後、07年に劇団四季の養成所へ。半年で『ジーザス・クライスト=スーパースター』で舞台デビュー。数々の主役をつとめ、09年末、新たな活動を求めて退団。11年からホリプロ所属。映画、ドラマへと活躍の場を広げている。
    公式HP http://horipro.co.jp/talent/PM058/
    『タイトル・オブ・ショウ』HP http://www.titleofshow.jp/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太