サラヴァ東京でライブを聴いた翌日。私はとても失礼なことに、横田寛之と、すでに自分のバンドとのセッションの約束をさせてもらっていた。ハギニワの「キャンディ・ダルファー」攻撃をえぐいなどと言っていられない。

 しかし彼は嫌な顔ひとつせず、にこにこと自由ヶ丘のライブハウス、Hyphenにやって来てくれたのであった。

 わがバンドはAYAYA BAND JAZZ&BOSSAという。ボリビア出身の日系ギタリストを中心に私がヴォーカルを担当して3年ほどになる。しかし、プロの奏者と一緒にプレイするのは初めてのことだ。

『LOVE』、『YOU’D BE SO NICE COME HOME TO』。一緒にやらせてもらってわかったのは、横田寛之はとても優しくて厳しい人だ、ということだった。テクニックの差を認識し、それでも他のプレーヤーたちの音を引き立て、なおかつ自分の良さも出すこともきちんとする。全体を見てくれている、気持ちのいいソロ。かといって「どや!」的な音は一切出さない。

 彼は言った。

「セッションは自分がここにいる意味、その人がここにいる意味が、はっきりわかるようにするのが一大テーマ。一緒にやっている人がいてもいなくてもよくなってしまったら、ぼくがいる意味もないでしょう」

 大学生に教えに行くという彼に同行した。定期的に教えている生徒の他に、コンテスト前にはこういうお呼びもかかるのだという。そこでも、学生達と目線を同じにしながらも、言うべきことをきちんと伝えていく彼がいた。

「ソロの時にね、ぶわーっと吹きまくって、はあーあ、って終わっちゃったらダメ。ちゃんと終わるよ、と終わらせないと」

 自身は早稲田大学ハイソサエティジャズオーケストラ時代、1年生でレギュラー、2~3年生ではコンサートマスターを務めたという。

「早稲田のビッグバンドは体育会系な感じで、厳しく言え、って言われましたね。なんか、今日は久しぶりに部室に入って懐かしい感じがします」

 リズムセクションの学生たちに最後にこんなふうに指導した。

「ちゃんとソロの音を聴いてね」

 最初はタメ口に近かった学生たちが、最後は神妙にうなずいていた。

  • 出演:横田寛之

    1981年、岐阜県生まれ。父親が尺八、母親が三味線の師範という家に生まれ、13歳から始めたジャズを志して早稲田大学に入学、ハイ・ソサエティ・オーケストラで2年生でコンサートマスターとなる。卒業後はプログラマーの仕事と同時にプロのミュージシャンとセッションを続け、2009年からストリート演奏活動を開始。現在、ETHNIC MINORITYとゴウダヴという2つのバンドをもち、それぞれアルバムを発表してジャズ界からも大きな評価を得ている。
    http://www.gauchedavinci.com/

    ストリート・ソロ http://www.youtube.com/watch?v=V4tB_8udhV4
    ETHNIC MINORITY http://www.youtube.com/watch?v=dYYvSsN7Kzc
    ゴウダヴ http://www.youtube.com/watch?v=j8sXZIxYykE

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太