横田寛之はまったくのソロ活動の他に、2つのバンドを持っている。

 ひとつはETHNIC MINORITYで、イーストワークスエンターテインメントから2012年1月に『Startin’』というアルバムを出している。このアルバムは、昨年、専門誌『ジャズライフ』で高い評価を受けている。音楽評論家の北原英司さんは彼のアルバムを年間のベスト2位に挙げ、「見た目と裏腹に切れば血の出るような沸騰する肉体性を見せる横田」と評している。

 もうひとつは、ゴウダヴという、彼のソロサックスを生かしたジャズのカルテットだ。こちらはドリカムのキーボードを担当していた堀秀彰ら、やはり一流どころのミュージシャンが顔を揃える。

 そんな彼の音楽をもっと知るべく、路上ではなくステージの上での彼の演奏を見ようと、渋谷のサラヴァ東京に足を運んだ。ここは、あのフランス映画『男と女』の曲をつくったピエール・バルーさんがオーナーの、由緒正しきライブハウスである。

 登場した横田寛之は、MacBook AirとiPad、足元のたくさんのエフェクターを駆使しながら、なんと多重演奏でサックスを吹き始めた。

 テクノの上に新たに解釈されたジャズがある、といったふうである。

 普通、テクノと言えばあまり人肌を感じないのであるが、彼のテクノはなぜかとても生身な感じがした。機械と彼とサックスが一体になっている生き物のように見えてくるのである。そこにドラムスが加わり、サックスとのインプロビゼーションが始まる。エフェクターを忙しく踏みながら、それがまた踊っているようにも見えてくる。エキサイトしてくると、ずり落ちそうになる眼鏡を、空いた手でぴっ、とあげる。

 2セット目のステージでは「あまるがむ」というバンドとのセッションを披露した。ここではまた、そのバンドのややアカデミックなサウンドの色合いに応じたサックスを奏でていた。

 ライブが終わると、萩庭桂太も私も「おみそれしました」という感じで、彼に頭を下げるしかなかったのだった。横田さんは、いえいえ、と120%いい人そうな笑顔を見せた。

「いつも、渋谷の路上で演奏するときも、パソコンとエフェクターのセットを全部持っていくんです。お二人に会った日はたまたま雨降りだったから、場所も雨の日しか行かない場所で、サックスだけでやっていたんです」

 我々はものすごい確率で、奇跡的に彼と出会ったらしい。

  • 出演:横田寛之

    1981年、岐阜県生まれ。父親が尺八、母親が三味線の師範という家に生まれ、13歳から始めたジャズを志して早稲田大学に入学、ハイ・ソサエティ・オーケストラで2年生でコンサートマスターとなる。卒業後はプログラマーの仕事と同時にプロのミュージシャンとセッションを続け、2009年からストリート演奏活動を開始。現在、ETHNIC MINORITYとゴウダヴという2つのバンドをもち、それぞれアルバムを発表してジャズ界からも大きな評価を得ている。
    http://www.gauchedavinci.com/

    ストリート・ソロ http://www.youtube.com/watch?v=V4tB_8udhV4
    ETHNIC MINORITY http://www.youtube.com/watch?v=dYYvSsN7Kzc
    ゴウダヴ http://www.youtube.com/watch?v=j8sXZIxYykE

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太