1時間後、我々は手打ちそば教室で、伊藤正雄先生の授業を聴いていた。

 可哀想にTiffanyちゃんはエプロンをして最前列にいる。せっかく日本に遊びに来て、かっこいい撮影だと思ったらいきなり蕎麦打ちである。しかし実に真摯に、日本語もわからないのに先生の話を聴いている。やがて実演に入ると、Tiffanyちゃんは驚いて言った。

「あら、蕎麦ってこうやって伸ばして切るんですね。私はこねたものを両手にもってゆさゆさ揺らして伸ばしていくのかと思っていました」

 なるほど、中華料理のレストランでそういう麺打ちをしているのを見たことがある。が、蕎麦粉はけっこう硬そうで、まずこねるところに力がいる。きれいにまとめ、最後に均等に細く切る。

 先生は一生懸命蕎麦をこねるTiffanyちゃんに目を細めた。

「筋がよさそうだとは思ってたけど、上手いねえ。そうそう、心が素直な人はすぐ丸くできるんだよ。さて、仕上げ」

 日本語はまだほとんど話せないはずのTiffanyちゃんがきれいな発音で言った。

「仕上げ!」

 聞けば、台湾でも「仕上げ」は「仕上げ」なのだとか。

 Tiffanyちゃんのつくった蕎麦を試食させてもらい、ようやく目が覚めてきた私たちであった。

  • 出演:Tiffany

    1990年1月1日台湾生まれ。国籍はアメリカ。アメリカ育ちの台湾マルチタレント。台湾に生まれ、幼少期にL.Aに移住。そこで語学、音楽、舞踏、ファンションを学習。 その後、ニューヨークにあるParsons The New School for Design(パーソンズ美術大学)に入学、主にファッションを学ぶ。 2013年夏に卒業予定。2012-2013年にかけて、台湾にて大規模な芸能デビュー計画がある。

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

スタイリスト:ERI
撮影:萩庭桂太