藤井道人は大学卒業後すぐ、『BABEL LABEL(バベル レーベル)』という会社を設立。大学時代の仲間と共に、映像制作全般を請け負っている。近年さらに『BABEL ASIA(バベル アジア)』という集団も新たに発足した。
「30代は日本で良質な作品を製作する一方、アジアでも勝負していきたいと思っています。僕自身が台湾のクォーターなんです。台湾に初めて行ったとき、生まれて初めての、ぞわぞわぞわぞわ、という感覚がありました。なんていうか、絶対にここには来たことがある、という。その感覚は大事にしようと思っています。肌に合うんです、台湾、台北という町が。日本でずっとやっているとマンネリ化するかもしれないし、アジア各地の新しい文化とぶつかることでなにか化学反応が起こるといいな、と思っています」
 実はアジアには、ちょっとしたトラウマがある。
「そうなんです、映画祭で、(精神的に)ボコボコにされた、という(笑)。台湾、中国、韓国の映画界の人たちと、日本代表として同席したことがあるんです。そこは日本の映画祭だったので、僕の作品が観客賞を獲ったんですけど、ただ僕自身は一番わかっているんです、絶対あっちのほうが面白い、って。韓国の力強さ、中国のクオリティの高さ、悔しかったです。
 日本人というのは、予算が100万円しかなかったら100万円で撮れてしまう器用さがあって、そこが優先されてしまう。1億円貯まるまで映画を撮らないという選択肢がないんですね。でも他の国の人たちは、作るということをすごく大事にしている。そこに強烈なカルチャーショックを感じました」
 現在撮影中、来年公開予定の『新聞記者』という作品にも、主演の松坂桃李の相手役に韓国の若手女優シム・ウンギョンを起用した。
「松坂さんもすごいですけど、シム・ウンギョンも底知れない演技力で、すごいです。通訳さん経由で〝私はいろんなボールを投げることができるから、どんな演技が欲しいのか、遠慮しないで言ってね〟と(笑)。監督の僕が試されているような気がしています(笑)」
 さらにアジアの先に見えているのは、ヨーロッパ。
「やっぱりヨーロッパの映画が好きなので。40代で『BABEL EUROPE(バベル ヨーロッパ)』を作りたい。いつか、是枝裕和監督のようにフランスで撮れたらいいなって。無国籍な映画、いろんな言語が飛び交うような映画が好きで、そういう作品をいつか作れたらいいな、と思っています。アカデミー外国語映画賞が獲れたら、最高ですね」

  • 出演 :藤井道人  ふじい・みちひと

    1986年生まれ。東京都出身。映像作家、映画監督、脚本家。BABEL LABELを映像作家の志真健太郎と共に設立。日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。脚本家の青木研次に師事。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』でデビュー。以降、『7s/セブンス』などの作品を発表する一方で湊かなえ原作ドラマ『望郷』、ポケットモンスター、アメリカンエキスプレスなど広告作品も手がける。2017年Netflixオリジナル作品『野武士のグルメ』や『100万円の女たち』などを発表。2018年、『青の帰り道』公開中。2019年『デイアンドナイト』『新聞記者』の公開が控える。

    公式HP http://babel-pro.com/about/

  • 【作品情報】
    『デイアンドナイト』
    企画・主演 阿部進之介 監督・藤井道人 プロデューサー・山田孝之
    父が自殺し、その原因を探るうちに復讐へと駆りたてられる明石。その彼に手を差し伸べる北村には、児童養護施設を運営して孤児たちを救う反面、犯罪に手を染める顔もあった。やがて父を自殺に追い込んだ大企業の社員・三宅に明石は対峙するが・・・・。完全オリジナル脚本で〈人間の善と悪〉をテーマに、混沌とした現代で強く生きることの厳しさを描き出す。2019年1月26日全国公開、1月19日秋田県先行公開。

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/