今週のYEO、主人公はこの人。来月公開の話題作『デイアンドナイト』を監督した藤井道人だ。
 取材を前に、本作を観た。スタイリッシュな映像、小気味よい展開、なにげないシーンが積み重なって、いつのまにか物語に引きこまれている。ストーリーは現代社会を背景にした復讐譚、だけど、イヤミもくどさも緩みもなく、教条的かつ安易な答もそこにはない。
「距離感、を大事にしています。僕は洋画で育った分、距離感が好きなんです、洋画の。日本の映画の距離感はすごい近い、というか、説明が多いですよね。なんかそういう、無駄な親切が僕はあまり好きじゃなくて。映画って、観る側の解釈で完成する。映画には、多少の余白が必要だと思うんです。その余白に自分が入り込んで、自分の映画になってくれる。僕自身その余白に、人生を生きる術を教えてもらったような気がしているし。その解釈が作り手と違ってもいいと、僕は思っています」
 しかも本作の脚本は、阿部進之介、山田孝之というふたりの俳優とガチで組み、4年間という歳月をかけて練り上げられたオリジナル。海外では、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットなどが製作会社を立ちあげ、自分たちの作りたい作品を撮ることが珍しくないけれど。
「はい、誰にもお願いされていないまま、とくかく自分たちで良い脚本を作ろうと、純粋に物作りに徹しました。まず書いてみて、台詞を全部、阿部進之介と山田孝之が声に出して読むんです。で、ノッキングした瞬間、〝あれ、これ、言いづらいな〟〝こういうとき、これは言わないよね〟〝この状況でこういう感情のとき、このキャラクターはこう言うんじゃないかな〟って、その場で訂正していく。夜の7時に始まって、気が付いたら朝の7時ってことが何度もありました。そうやって4年間、28稿まで直していったんです」
 だからこそ、の、『デイアンドナイト』。洗練と情熱と映画愛が絶妙にブレンドした、新しい日本映画の誕生だ。
公開はまだちょっと先だけど、映画監督・藤井道人の裏表を、YEOが徹底取材。今週金曜日まで連日更新でお伝えします。

  • 出演 :藤井道人  ふじい・みちひと

    1986年生まれ。東京都出身。映像作家、映画監督、脚本家。BABEL LABELを映像作家の志真健太郎と共に設立。日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。脚本家の青木研次に師事。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』でデビュー。以降、『7s/セブンス』などの作品を発表する一方で湊かなえ原作ドラマ『望郷』、ポケットモンスター、アメリカンエキスプレスなど広告作品も手がける。2017年Netflixオリジナル作品『野武士のグルメ』や『100万円の女たち』などを発表。2018年、『青の帰り道』公開中。2019年『デイアンドナイト』『新聞記者』の公開が控える。

    公式HP http://babel-pro.com/about/

  • 【作品情報】
    『デイアンドナイト』
    企画・主演 阿部進之介 監督・藤井道人 プロデューサー・山田孝之
    父が自殺し、その原因を探るうちに復讐へと駆りたてられる明石。その彼に手を差し伸べる北村には、児童養護施設を運営して孤児たちを救う反面、犯罪に手を染める顔もあった。やがて父を自殺に追い込んだ大企業の社員・三宅に明石は対峙するが・・・・。完全オリジナル脚本で〈人間の善と悪〉をテーマに、混沌とした現代で強く生きることの厳しさを描き出す。2019年1月26日全国公開、1月19日秋田県先行公開。

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/