京都から東京に来たとき、伊藤仁美はほとんどの洋服を処分したという。
「洋服2枚だけ残して、あとはすべて着物です。ですからほぼ毎日、着物で暮らしています」
 洋服から、着物へ。何がどう、変わったのだろう?
「楽になりました。以前はどんな洋服を着ていてもずっとずっと自分に自信がなくて。コンプレックスばかりでしたし、何をしていても、何かが違う。買っても買っても流行のものが次々に出てくるし、ずっと満たされなくて、苦しかったんですよね。でも思い切って着物だけにしてみたら、物欲がなくなりました。祖母の着物に今のものを組み合わせたりしていると、オンリーワンの着こなしができるんです。人と比べることもなくなりました。そこが自分の苦しさの元だったんだなって、今ではわかります。自分はこれを軸にして生きていくんだっていうものが出来たら、とても楽になりました」
 さらにもっと大きな変化が。
「体が丈夫になりました。お腹と腰と、1番大事なところを帯が守ってくれているんです。寒さや暑さも、洋服を着ていた頃よりも感じません。真夏でも浴衣で過ごしていると心地良くて、高温多湿の日本の気候に合っているんですね。冬はシルクを重ねるのですごく暖かい。風邪も引かなくなりました」
 そしてご覧のとおり、彼女は今妊娠中。今月が臨月で、1月末には母になる。お腹が大きくなる間中ずっと、着物が体を優しく包んでくれたという。
「自分の体が一日一日変わっていって、すごい面白かったです。お腹が大きくなってからは、意外なことに絞りの着物が大活躍しました。伸縮性がすごいんです。あとはいろいろ、男帯を使ったり、結び方を工夫したり。毎日実験しているような(笑)」
 今から楽しみなことがひとつある。
「年長のご婦人に伺ったのですが、昔は兵児帯で赤ちゃんをおんぶしたんですって。兵児帯も伸縮性が高いので、理に適ってますよね。今からスタンバイしてます」

  • 出演 :伊藤仁美  いとう ひとみ

    京都、建仁寺塔頭両足院に生まれ育つ。祖父の法要のとき、彩り豊かな僧侶の袈裟を見て開眼、和の世界に興味を持った。祖母の遺した着物を着るため、西陣和装学院で着付けを学び、2008年師範を取得。祇園を拠点に着付け、スタイリング、和装小物の企画などに携わる。2015年10月、活動の拠点を東京へ移し、プライベートサロン『enso』をオープン。主な活動は着付けの個人レッスン、講演、雑誌やテレビなどのスタイリングや着付けなど。また自らがモデルとして国内外のメディアに登場している。

    オフィシャルサイト http://hitomi-ito.com/sp/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/