〝これだ!〟と思った伊藤仁美はさっそく、着付けを習い始めた。自宅に祖母の着物があるのを思い出したのだ。自分で着られるようになりたい。まずは、そこから。
「でもやってみたら面白くて、ハマりました。それに、自分では持っていなかったので祖母の着物、母の着物、親戚の女性の着物を着てみると、みんなすごく喜んでくれるんです。今までなかったコミュニケーションがたくさん生まれて、着るだけでこんなに喜んでくれるモノって、他にないなと思った。考えてみたらこの状況、ウチだけじゃないですよね。日本中に、着てもらえない着物がたくさん眠っている。それを着るきっかけ作りになればいいなと、そんな思いが今のこの仕事につながっています」
 着付けの師範の免状を取ってからは、さまざまなシーンの着物に挑戦。まずは結婚式場の着付けから始め、次は祇園のホステスさん。
「5年くらい毎日、数名の着付けを担当していました。連日会うので、向かい合うとその日の体調とか気分がわかるんです。それを感じて、その人と呼吸を合わせて着せていくのが、奥深く面白くて。それに長時間、お酒を飲んでも着崩れないように、必殺技をいくつも開発しました。長襦袢のヒモがなくても崩れないように。ヘアピン1本使うだけで朝までもつように。本当に勉強になりました」
 次にトライしたのが、祇園の舞妓と芸妓の着付け。
「1枚の平面の布を立体にまとわりつかせていくときのちょっとした手加減で、いろいろな表現ができるんです。舞妓さんならおぼこい、可愛らしさを出してあげる。芸妓さんはちょっと色気が感じられるように着付けます」
 さらに、メイクの専門学校でも、着付けの講座を持った。
「着物のことをまったく知らない若い子たちに教えました。足袋なんて見たこともない子がいて、親指と4本の指で分けることを知らなくて、2と3で履いたり(笑)。着物を羽織らせて、と言ったら体の正面からバサッと羽織らせたり(笑)。これだけ核家族化していると、写真でしか着物を見たことがない。わからないですよね・・・・」
 プロからアマチュアまで、京都の着物事情を心に刻んだ伊藤仁美が次に向かったのは・・・・。

  • 出演 :伊藤仁美  いとう ひとみ

    京都、建仁寺塔頭両足院に生まれ育つ。祖父の法要のとき、彩り豊かな僧侶の袈裟を見て開眼、和の世界に興味を持った。祖母の遺した着物を着るため、西陣和装学院で着付けを学び、2008年師範を取得。祇園を拠点に着付け、スタイリング、和装小物の企画などに携わる。2015年10月、活動の拠点を東京へ移し、プライベートサロン『enso』をオープン。主な活動は着付けの個人レッスン、講演、雑誌やテレビなどのスタイリングや着付けなど。また自らがモデルとして国内外のメディアに登場している。
    オフィシャルサイト http://hitomi-ito.com/sp/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/