夢を持って生きるのは、楽しいことばかりとは限らない。才能がなければ、苦しいことも多いはず。
 吉沢さんは望み通りに歌手デビュー、その後は劇団四季のオーディションに一発合格と、次々と扉を開いていった。だけど吉沢さんには、忘れられない1日があるという。

「ミュージカルのヒロインを演じていたとき、声が出ない日があったんです。いっぱい歌わなければならない演目なのに、最初の歌を歌い終わったとき、血の気が失せました。ここから2時間半、どうすればいいんだろう? って」

 舞台の上に立ちながら、必死で考えた。出てきた答えは、

「このヒロインだって、風邪をひいて声がでない日があるはず。今日はたまたまその日なんだと思うことにしました(笑)。とはいえ、台詞だけはちゃんとお客さんに届けよう。なんとかして、それだけの声は出そう、と」

 結果、その日の舞台は大成功。観客席からは、それまでで一番熱い拍手をもらった。

「あんなに集中して、一幕一幕を演じた、いえ、あの役を生きたことはなかったと思います。それ以来、舞台前に神棚に手を合わせるときに、心の中でつぶやく言葉が変わりました。いつも〝今日はうまく歌えますように〟って祈っていましたが、それからは〝ちゃんと役を生きられますように〟って」

 劇団四季には、7年間在籍の後、退団。それからはミュージカルだけでなく、TVドラマや映画にも出演、もちろん歌の仕事も以前より楽しめるようになったという。

「全部一緒だな、と思えるようになりました。ミュージカルが一番とも思っていませんし、7年間舞台に立っていたので踊りも歌も。5歳からやっているので、人前でなにかやるのは、私にとって生活そのもの、なんです」

  • 出演:吉沢梨絵(よしざわ りえ)

    1976年9月25日生まれ。東京都出身。1981年『劇団ひまわり』に入団し、子役としてTVドラマや映画に出演。1997年エイベックス(VOCALAND)から歌手デビュー。2002年劇団四季に入団。『マンマミーア』『赤毛のアン』『ふたりのロッテ』などで主演をつとめ、数多くのミュージカル作品に出演。2009年に退団し、イギリスに渡る。2010年帰国。2011年から芸能活動を再開。2016年1月から休業し、11月上旬第一子となる女児を出産した。
    オフィシャルブログ http://ameblo.jp/yoshizawarie/

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/