笈田さんがまず参加したのは、ベーシック・エンカウンター・グループという講座。週に1回、縁もゆかりもない7~8人が集まって3時間、何でもいいからしゃべる、という試みだった。

「1年くらい経った頃、仲間のひとりが私にこう言ってくれたの。〝あなたも人にちゃんと見てほしいんだよね〟って。それを聞いた途端、私、ボロボロと泣いていた。〝そう、そうだったのよ、私!〟って。人に頼られるのが好きで、人のために何かするのが得意だけれど、自分が他人に頼んだり甘えたりするのがすごく下手。だけど本当は甘えたいし、よしよし、頑張ってるねって、認めて欲しかった。
 他人が、自分の知らなかった自分を教えてくれるんです。そうやってだんだんと、ありのままの自分でいられるようになる。心理学には〝人は、人の中で人になる〟という言葉がありますけど、〝人は他人の目を通して自分を見つける〟んですよ」

 以来、カウンセリングの勉強を続けながら、そのスクールの運営をアルバイトとして手伝うように。そして平成6年、事務局長が病に倒れたのを機に、笈田さんがそのスクールの事務局長に。

「ちょうどその頃からカウンセリングが流行ってきたので、経営は順調でした」

 平成12年には組織をNPOにして、名称は『NPO カウンセリング教育サポートセンター(CESC)』とした。子育て支援のためのお母さんサポートラインという電話相談を立ちあげたり、人材養成の講座を作ったりと、大活躍。平成18年には組織替えをして、事務局長を若い人に譲り、平成27年新たな展開を目指して神保町にお引っ越し。今は理事としてこのCESCの下支えをしている。
 っていうことはつまり、ウツをきっかけに、その後の人生を切り拓いてきたんですね!

「まー、私の場合は極端かもしれないけど(笑)。でもピンチはチャンス、なんです。カウンセリングの中で私、よく言うんですけど、ピンチになったというのは、今までのやり方では立ちゆかなくなったというサインで、ウツはそれに対応する自己防衛反応なんですよ。だからウツになるのはその人に必要なことだった。ここで今まで気付かなかった本当の自分に気付いてあげれば、この先もなんとかなる。もちろん、気付きに至るプロセスは人それぞれなので、そのためにカウンセラーという人間がいるわけです」

  • 出演:笈田育子(おいだ いくこ)

    中山ニナという名でDJアシスタント、司会、モデルとして活動の
    後、40代から心理カウンセラーに。目白大学大学院心理学研究科臨床心理学専攻修
    了。臨床心理士。日本カウンセリング学会認定カウンセラー。カウンセリング教育、
    講演、カウンセリングを中心に各地で活動中。主な活動は、目白大学心理カウンセリ
    ングセンター相談員をはじめ、『NPO CESC カウンセリング教育サポートセ
    ンター』、看護専門学校で人間関係論の講義、地方自治体の女性の悩み相談など。

    撮影協力

    『NPO法人 カウンセリング教育サポートセンター(CESC)』
    東京都千代田区神田神保町1-34 風間ビル3階
    http://www.npo-cesc.net

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/