家出同然の形で上京し、とりあえず友達の家に居候したしおりちゃんは、まずは生活費を稼ぐため、朝から晩までアルバイトに明け暮れた。それから半年、ようやく自分の部屋を借りられるようになった頃、しおりちゃんは渋谷の路上である人に偶然出会う。そう、本日のカットに写っているのが、その場所です。

「そのとき私は、広尾にあるお店を探して、山手線沿いの道を歩いていたんです。だけど、田舎者だから道に迷っちゃって。日も暮れて暗くなってきたのに、自分がどこにいるのかさっぱりわからない。誰かに道を聞かなきゃと思っていたところ、1人の怪しいオジサンが目に止まったんですよ」

 スーツ姿のサラリーマンが行き交う中、そのオジサンはアロハのような派手なシャツを着て、頭にはヘッドフォン。耳元からはジャカジャカと大音量で音楽も漏れている。

「すいません、道を教えてもらえませんか?」

「はぁ~? よく聞こえないんだけど~」

「道に迷っちゃったんですけど!! 広尾ってどっちですか!?」

 そこでようやくヘッドフォンをはずしたオジサンは、広尾はまったく逆の方向で、とりあえず自分と一緒に恵比寿まで歩いて行こうと言ってくれた。オジサン、意外といいヒトじゃん。

 その道すがら、「実は私、芸能界を目指しているんですよ」と、身の上話をしたところ、「へぇ~、タレント志望なの? 僕、雑誌の『Ray』が創刊されたときの編集長だったんだよね」と、思いも寄らぬ返答が。えーっ!? この怪しいオジサンが『Ray』を創刊した編集長?

 念のため補足をすると、『Ray』は『CanCam』『JJ』と並ぶ、女子大生に人気のファッション誌。しおりちゃんくらいの年齢の女のコなら、誰でも当然知っている。そして、そのオジサンの名前は中西立郎さん。現在は映像や音楽のコンテンツを海外に提供する会社を自ら経営している方だ。中西さんは恵比寿まで一緒に歩いてくれただけでなく、「何か力になれれば」と別れ際に名刺まで渡してくれたのだ。

「そんなスゴイ方と偶然出会えるなんて! もう大興奮で居ても立ってもいられずに、“先ほどはありがとうございました”って、別れてから30分もしない内に電話して、あらためてもう一度会って下さるようにお願いしたんです」

 なんという行動力! さすがバスケで培ったダッシュ力と言うべきか。そして翌週、約束した場所に行ったとき、中西さんの他にもう1人、さらに怪しいオジサンがしおりちゃんを待っていた。その方はX JAPANやLINDBERGを始め、名だたるミュージシャンをプロデュースしてきた音楽プロデューサーの月光恵亮さん。「女優志望の女のコがいる」と中西さんから話を聞いて、わざわざ会いに来てくれたのだ。

 うわわわ~、奇跡がダブルで訪れた。そして、「女優を目指すなら、もう少し痩せて」と月光さんからアドバイスされ、しおりちゃんは約半年の時間をかけて懸命に自分磨きに励む。ウォーキングやジョギングで体重を8kg減らし、肩まであった髪はショートに。真っ赤なホッペのダサかったメイクもいまどきのナチュラルメイクに変えて大変身(変身前の姿を知りたい方は、しおりちゃんのブログをぜひチェック)。

 そして、見事にバージョンアップしたしおりちゃんは、晴れて月光さんの知り合いの芸能事務所の面接を受けられることになったのだ。家出同然で香川を飛び出してから約1年。さあ、その面接で社長の心をグッと掴んだ、しおりちゃんの切り札とは?

  • 小野しおり

    1992年、香川県生まれ。高松商業高等学校卒業後、四国医療専門学校へ進学。同校在学中の2012年に、香川県・百十四銀行のCMガール「サリュカ美人」に選ばれる。BJリーグ「ファイブアローズ」イメージガールも。同年末に上京。14年に芸能プロダクションのスタッフ・アップに所属。
    小野しおり公式プロフィール http://www.staff-up.net/staffup/9.html
    小野しおりオフィシャルブログ http://ameblo.jp/shiori-ono0201/

  • 取材・文:内山靖子

    ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒。在学中よりフリーのライターとして執筆を開始。専門は人物インタビュー、書評、女性の生き方や健康に関するルポなど。現在は、『STORY』『HERS』(ともに光文社)、『婦人公論』(中央公論新社)などで執筆中。

撮影:萩庭桂太