宝塚音楽学校では、2年生の夏休みの宿題として、芸名を考えるのだという。

 安蘭けい、は自分でつけた。

「本名は瞳子なので、父は『瞳』がいいのではと言いましたが、それでは娘役っぽい。安蘭は韓国に伝わる『アリラン伝説』から『アラン』ってかっこいい響きだなと。その下はさっぱりした「けい」がいいなと思いつきました。応援してくれる父親、祖父の故郷である慶尚南道の慶にもちなんでいます」

 去年、舞台デビュー20周年を機に、韓国の本籍地を訪ねた。

「ちっちゃな無人の駅で。貨物電車と普通の電車が両方通っているようなすごい田舎です。おまけに本籍地の細かい住所もわからないのに、とりあえず行ってみたんです。するとおばあちゃんたちが昼下がり、ぺちゃくちゃ立ち話をしていたんです。『私は日本から来て、祖父はこの辺りに住んでいたと思う』と言うと、思い当たることがあるという人がいて。人が住んでいる場所が限られているところだからということもあると思いますが、とても嬉しい出会いでした。『アントニーとクレオパトラ』で韓国公演ができるという機会があったのも、何か縁をいただいたのかもしれません」

 「父は誇りをもっていますから」と、彼女は凛々しく言った。自身は滋賀県の出身だ。私自身も移民である祖父をもつが、時代が違うとはいえ、その出自を語ることは多かれ少なかれ覚悟と誇りがいる。

 彼女のまっすぐさが眩しいような気がした。

 アリラン伝説ならぬ安蘭けいの伝説はそこから始まるのだ。

安蘭けい主演 ミュージカル『アリス・イン・ワンダーランド』

2012年11月18日(日)~12月7日(金)青山劇場
CAST:安蘭けい、濱田めぐみ、田代万里生、高畑充希、松原剛志、柿澤勇人、JOY、
石川禅、渡辺美里
http://hpot.jp/alice/

  • 出演:安蘭けい

    1991年、宝塚歌劇団に入団。『ベルサイユのばら』で初舞台を踏む。06年星組トップスターとなり、08年『THE SCARLET PIMPERNEL』に主演、作品は菊田一夫演劇大賞を受賞。09年4月宝塚を退団し、9月『The Musical AIDA』で女優としてデビュー。『エディット・ピアフ』『サンセット大通り』などで演技の幅を大きく広げる。蜷川幸雄演出の『アントニーとクレオパトラ』では韓国公演も果たす。
    http://horipro.co.jp/talent/PF112/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太