日本中の家の箪笥には、膨大な量の着物が眠っている。祖母の着物、母親の着物、伯母や叔母や義母の着物が、出番のないまま隠れている。着てあげたら着物はきっと、喜ぶはず。さらにネットの中古着物市場も、今や大充実。買ったときにはン万円しただろう着物が、かなり気軽な値段で手に入る。そんなに背伸びしなくても着物は今、手が届くおしゃれなのだ。
「着物を着ていると、みんな優しいですよ。重い荷物は持ってくれるし、レストランに行くと、頼んでいないのに個室に案内していただけたりします」
 今は1月。正月から成人式にかけて、着物姿の女の子を見かける季節だ。
「でも最初に着たときに着付けがキツくて、着物って窮屈、ツラいと思い込んでトラウマになってしまう人が多いのが、残念です。もっと楽に着られるものなのに」
それに着物にはルールがある。季節にあった柄選びやTPOに合わせた格合わせなど、さまざまなルールが壁になってしまうことが多い。そんな中で伊藤が提案するのは、日本の美意識を大切にするべき場面ではそれを敬い、継承すること。そしてファッションとして着る場合には、現代のライフスタイルに寄りそう形で、自由に楽しめる着物だ。
これからは個人レッスンや講演だけでなく、着物に関する情報やミニ知識、愉しみ方などをさまざまな形で発信していくつもり。「同年代の女性たちで立ち上げるプロジェクトKimonobleもその一つです」
「着物って、文字通り〝着る物〟なんです。幕末に洋服が入ってくるまで、日本人は全員着物で暮らしていた。それにはそれなりの意味も価値もあったはずです。もちろんルールはルールとして大事にすべきですけど、それ以前に楽しんで着てしまえばいい。せっかく日本人に生まれて着物がそばにあるのだから、その良さを知ってほしい、楽しんでほしいです!」

  • 出演 :伊藤仁美  いとう ひとみ

    京都、建仁寺塔頭両足院に生まれ育つ。祖父の法要のとき、彩り豊かな僧侶の袈裟を見て開眼、和の世界に興味を持った。祖母の遺した着物を着るため、西陣和装学院で着付けを学び、2008年師範を取得。祇園を拠点に着付け、スタイリング、和装小物の企画などに携わる。2015年10月、活動の拠点を東京へ移し、プライベートサロン『enso』をオープン。主な活動は着付けの個人レッスン、講演、雑誌やテレビなどのスタイリングや着付けなど。また自らがモデルとして国内外のメディアに登場している。

    オフィシャルサイト http://hitomi-ito.com/sp/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/