和服が似合う楚々とした美女は、着物家・伊藤仁美。現在東京を拠点に活動している。
〈着物家〉と言うだけあって、さすがの着こなし。キリッとしながら余裕があって、無理も無駄もない、ただただ優雅なたたずまいだ。
生まれは京都の、建仁寺塔頭両足院。と、言うことは?
「京都にはたくさんのお寺があるんですけど、建仁寺はその中でも最古の禅寺です。800年ほどの歴史があり、京都五山のひとつで、その中でも両足院は学問の中核を担っていたと聞いています。そこの長女として生まれました」
 じゃ、そのお寺の中で生活していた?
「そうですね。床の間があってそこにお花とお軸が飾られて、いつもお香がたかれていましたし、庭を見ればいつも四季が感じられる、そんな家でした。いつも木魚の音がして、父が読むお経がBGMのように聞こえていました。今にして思えば特殊な環境ですけど、そういう地域ですから小学校の同級生はお寺の子どもが多く、それが当たり前だと思っていました」
 そういう環境だったら、日常生活に着物があっても不思議じゃない。子どもの頃から着物を着る機会が多かったんですね?
「いえ、それが・・・、反発したんです(笑)。洋モノにすごく憧れていて、畳とかふすまとか障子とか、〝こんなオバアチャンみたいな暮らし、イヤや!〟って。出窓とかレースのカーテンに憧れていました。学校を出てからの仕事も、ヨーロッパのアンティークのお店で働いていたんです」
 一大転機があったのは、20代半ばを過ぎた頃、祖父の法要に参列したときのこと。
「お香の香りがして、お坊さんたちの袈裟が色鮮やかで美しくて、なんてキレイだろう! と。お坊さんたちがお経を唱えながらぐるぐるまわるんですけど、まるで美しい舞のように私には見えました。合掌してお辞儀するその所作も本当にキレイで・・・・。色と香りと所作と衣装と、日本文化の美しさに圧倒されながら、私が関わっていくもの、伝えていくべきものはこれだと、そのときにビビッと来たんです。〝こんなにすぐそばにあったのに、なんで気づかなかったんだろう? やっと出逢えた!〟と」
 今週のYEOは、そんな彼女の今とこれから、そして着物話をお伝えする。
お正月から成人式と、和服姿が増えるこの季節、着物ウオッチングが楽しくなるかも!

  • 出演 :伊藤仁美  いとう ひとみ

    京都、建仁寺塔頭両足院に生まれ育つ。祖父の法要のとき、彩り豊かな僧侶の袈裟を見て開眼、和の世界に興味を持った。祖母の遺した着物を着るため、西陣和装学院で着付けを学び、2008年師範を取得。祇園を拠点に着付け、スタイリング、和装小物の企画などに携わる。2015年10月、活動の拠点を東京へ移し、プライベートサロン『enso』をオープン。主な活動は着付けの個人レッスン、講演、雑誌やテレビなどのスタイリングや着付けなど。また自らがモデルとして国内外のメディアに登場している。
    オフィシャルサイト http://hitomi-ito.com/sp/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/