今までたくさんの女優さんをインタビューしてきたけれど、本当に演技のうまい何人かの女優さんと共通するものを、彼女から感じた。

 それを言葉にするのはとても難しい。たとえば、透明感。何にも染まっていない、ピュアな印象。だからこそ、そのまま与えられた役を生きることができる。それでいて、役に乗っ取られてしまうことのない、自分の強さも秘めている。

「本当にまだまだ、何も経験していないんだろうな自分は、と思います。ドラマを撮影する現場にも、最近ようやく慣れてきたという段階なんです。撮影のリズムとかペースとか、現場で使う専門用語とか。最初は知らないことだらけで、何か言われても〝ナンデスカソレハ?〟っていう状態でしたから(笑)」

『べっぴんさん』の撮影も中盤を超えた。この先、どんな女優に彼女はなっていくのだろう? 尋ねたら、しばらく考えてから、こんな答えが戻ってきた。

「なんでしょう? これが終わった後にどんなお話がいただけるのか、本当にわからないので。言ってしまえばノー・プラン。というか、なんでもやりたいです、なんでも」

 女優をやっていくうえで、ひとつだけ、心に決めていることがある。

「これ、というイメージにおさまってしまうのは、避けたいですね。ひとつのイメージがついたら、それを壊してまた新しいイメージを作りたい。1回1回壊して、いつも新しい自分でいたいです。幅広い役を演じることができる女優に憧れるので、おとなしいキレイな役から、みっともない情け無い役もアリだなって思ってもらえるような。そんな女優になりたいです」

『べっぴんさん』の病弱で潔癖でキレイな君枝ちゃんとは、ドラマの最終回までのお付き合い。その後彼女はいったい、どんな変貌を遂げるのか。

「ひょっとしたら私、君枝ちゃんという理想的な女性を演じながら、自分の中にある人間くさい部分を今、持てあましているのかもしれません。私の中にはそういうちょっと不穏なところもあるので、そこが今、フツフツと堆積しているのかも・・・」
 土村芳という名前、そのうち誰もが知っている名前になりそうだ。

  • 出演:土村 芳(つちむら かほ)

    1990年12月11日生まれ。岩手県出身。京都造形大学映画学科卒。舞台・映画・CMなどで活躍。主な出演作に映画『カミハテ商店』『弥勒-MIROKU-』『劇場霊』、ドラマ『ワカコ酒』『フラガールと犬のチョコ』『コウノドリ』、舞台『銀河鉄道の夜』『母に欲す』など。現在は映画『何者』、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』にヒロインの友人・君枝役で出演中。
    オフィシャルサイト ヒラタオフィス http://www.hirata-office.jp

    HAIR&MAKE:石邑麻由

    STYLIST:道端亜未

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/