離婚後は何を?

「実家に出戻らせてもらいました。“なんでもない”時間をとりあえず持ちたかった。実家の家業を少し手伝ったりはしていましたけど、2年近く何もせずにいました。何かやらなきゃと思っていた矢先に、普段優しい兄に『お前、いつまでそうしてるんだ!』って言われて気が引き締まったというか我に返ったっというか。何かしなきゃだめだと思いました。
 でも資格があるわけでもないし、10年芸能界にいたところで何が出来るわけでもないし。OL経験はありますけど、昔の秘書検定持ってるからってそれが役立つわけでもなく、OLは二度とできないだろうし。と堂々巡り。
 その時たまたまつけていたテレビで芸能界を引退した友達が『職安に行こうと思う』っていう話をしていて、そうだ私も職安に行ってみよう!と。早速その日に行きました。
 当時37歳だったんですけど、特に資格があるわけでもない私に何が出来るのか検索してみました。不動産屋さんの事務、お花屋さんの卸、エステティック・サロンの三つが出て来たんです。それで美容や健康に興味がないわけじゃないからエステにしようと思いました。失礼ながら初めはそんな気持ちでした。履歴書を書いて、アポイントをとって面接に行きました。最初はいきなりフルで働くのは無理かなと思ってパートを希望しました。でも、『パートだと正社員のアシスタントになるので技術を教えてもらうのが後回しになりますよ。せっかくだから正社員で入ってみませんか』と言ってくださって。家族に相談したら背中を押してくれたので社会復帰のために正社員で就職する事を決めました」

 ここから彼女は水を得た魚になる。真面目なだけに一度前を向くととことんポジティブだ。

「接客業は若い頃のアルバイト以来だったので不安でした。ところが意外や意外、本当に楽しくて楽しくて。サロンのスタッフにも恵まれて、凄く忙しかったんですけれど、お店に行くのが楽しみで。毎日ウキウキしてました。
 基本肉体労働なので大変なんですが、その大変さが『私生きてるな』っていう実感が得られて、無条件に前向きになれました。お給料をいただきながらお仕事を教えてもらえる、それがすごく有難かったです。働くということの対価としてお金をもらえるわけですけれど、その時の私はド新人で右も左もわからない。そんな私に会社はお給料を払いながら勉強させてくれている。なんて有難い環境なのかと」

 お客さんの中にはもちろん彼女に気が付く人もいた。

「2年弱勤めさせてもらって、たまにお客様に気が付かれましたけど『そんな時代もありました、今はここで社員として働いていますのでまた是非ご来店くださいね』ってすがすがしい気お持ちで仕事をしていました」

 かなり遠回りはしたものの彼女はやりがいのある仕事を自分でみつけた。どんな職業であれ、自分がやるべき仕事、天職と思えるような仕事を見出した人は幸福だ。紆余曲折あったにせよそんな仕事に出会えたのならば、かつての辛い日々はあながち無駄ではない。むしろ貴重な財産なのではないだろうか。

  • 出演:立河宜子(たちかわ のりこ)

    エステティシャン、化粧品販売、エステ・サロン経営。株式会社BASIC BEAUTY代表。一般社団法人化粧品検定1級。一般社団法人コスメコンシェルジュ。介護職員初任者研修。一般社団法人日本抗加齢医学会会員。
    BASIC BEAUTYオフィシャル・ホームページ http://www.basicbeauty.jp
    BASIC BEAUTYフェイスブック www.facebook.com/bb.basicbeauty

  • 取材/文:横田一郎

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/