渋谷のセンター街。指定されたカフェに伺うと、半分ほど飲んだ抹茶シェイクを前にした、古川雄輝さんがいた。新人で勢いのある人は、1年でもどこか容貌が変わったりする。本人はおそらく気づいていないだろうが、明らかにこちらの目には輪郭がはっきりしていくように見える。別に肥ったり大きくなったりするわけでもないのだが、存在感が増すのだろう。

「中国ですごい人気なんだって?」と、まずはそこから尋ねてみる。いったいどうしてそんなことになっているのか。

「フジテレビのBS、CSでやったドラマ『イタズラなKiss~Love in Tokyo』 というドラマで主役の入江直樹を演じたんですけど、これが中国で日本ドラマとして初めて正式配信されて、人気が出たんです。今、中国版のTwitter『微博(ウェイボー)』で約94万人フォロワーがいるんです」

 人気が出始めた当初、日本にいる間は感じなかったそうだが、ある時期から事務所に不思議なプレゼントが届き始めた。

「僕がスターバックスで抹茶フラペチーノを飲んでる写真が雑誌に載って、中国各地からスタバのご当地タンブラーが送られてきはじめたんです。今は、アメリカ、台湾、シンガポール、インドネシアなどでも観られるので、そのタンブラーの種類も世界的になってきましたね」

 さらに今年7月21日、日本人俳優では初めて、上海でファンミーティングが開催されることになった。

「空港に降り立ったら、1000人くらいファンがいたんです。SPの人が20人くらいついてくださって、歩けない状況になっていて。ビックリしました。」

 上海の空港に1000人規模の出迎えがあるのは、ジョニー・デップ並なのだとか。

 しかしなぜそんなにも『イタズラなKiss』の彼はファンの心をとらえたのか。

「原作は少女漫画。まずその作品自体、人気があったんですね。それと、主人公の入江君のキャラクターと僕の経歴が少し似ているんです。僕は医者の父親に反抗してエンジニアを目指して、そこから俳優になったんですけど、入江君も父親のあとを継げと言われて反抗する。だから、感情移入しやすかったのと、自然と演じられた理由かもしれません」

 ネイティブな英語がしゃべれる、というのもストレートにファンに意志を伝えられるポイントだったのだろう。

 それにしても、そんな彼と抹茶シェイクはなんだかミスマッチなようで面白い。抹茶好きなの? と尋ねると、はい、とうなずいた。

「僕、日本が大好きなんで」。

  • 出演:古川雄輝

    1987年東京都生まれ。7歳でカナダ・トロントへ渡り、11年間を海外で育つ。高校入学と同時に単身、ニューヨークへ。18歳で帰国し、慶応大学理工学部に入学。エンジニアを目指す。2009年、ミスター慶應に選ばれたのを機に10年夏には役者デビュー。フジテレビBS系・CS系のドラマ『イタズラなKiss~Love in Tokyo』が中国で放映されたことから現地で大人気に。日本でもドラマ『八重の桜』、『夫のカノジョ』、映画『潔く柔く』、『永遠の0』と出演が続いている。14年1月10日からは新宿・紀伊國屋ホールでの舞台『俺達の明日』に主演する。

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太