そこから凸版印刷、GAP、セシールと次々に大手会社に引き抜かれ、デザインや企画を担当。さまざまな現場を経て、総合プロデューサーとしての腕を磨いた。
「モノを作る人、工場さんとか作家さんとか、さまざまな業種の人と付き合うようになって、いろいろ教えてもらいました。最終的に私は、プロのサラリーマンを目指したんです。ワンマン社長の元で、やれと言われたことはすべてやる。絶対的にイエスマンに徹して、もっと他にあるんじゃないかと日本中を探したり調べたり、無理なことでもやってみることが多かった。そのおかげで、いろんなものができるようになった、という感じですね」
 現在の肩書は、トータルビューティプロデューサー。どうやら美容業界では、知る人ぞ知る、大物らしい。
「化粧品やファッションブランド、雑貨や生地のプロデュースをしています。調香師の資格も持っていますし、いろいろなものをマーケティングして企画してデザインして作って売ることができるので、何かやりたい、という人のお手伝いをしてるというか」
 ちなみに、仕事といなり寿司とは何の接点もないそうだ。 
「そういうふうに、もともと運だけで生きている人間ですから、運が落ちたらマズイな、という思いがあります。ですからいなり寿司だけじゃなく、稲荷神社に通りかかると必ずご挨拶します」
 最近は御朱印集めが流行っているようだし。やっぱり御利益、あるのでしょうか?
「あります、とは、言い切れないんですよね(笑)。で、ウチにお稲荷さんをお迎えすることにしました」
 神棚を作り、好きな神社からお札を頂戴して祀り、お酒、お米、お塩、お水を供えて、お参りする。お水は毎朝、取り替える。その他いろいろルールはあるけれど、そんなに難しいことでは、ないらしい。
「おかげで運気は上がりました。お願いしたことはほぼ100%の確率で叶うんです!」
 お稲荷さまのご加護もあると思うけど、だけじゃない。〝運だけで生きている〟とか〝運が良い〟と自分のことを言う人はたいてい、実力を磨き、努力を怠らない人なのだ。
〈いなり王子〉というかなりキッチュな看板を背負いながら、坂梨カズには奥行きのある、大人の、ジェンダーを超越した魔力がある。彼の出現によって近い将来、日本中の人々が嬉々としていなり寿司を食べはじめる日が、来るような気がする。

  • 出演 :坂梨カズ   さかなし かず

    1966年9月18日生まれ。トータルビューティープロデューサー。幼い頃からいなり寿司を愛し、15年前から日常的にいなり寿司を愛好。好きが高じて『一般社団法人 いなり寿司協会』の設立に関わり、現在広報担当としていなり寿司の普及活動に努めている。1990年『凸版印刷 トッパンアイデアセンター』に入社してアートディレクターに。93年『GAP』に入社。95年『セシール』クリエイティブ部門にて商品開発に関わる。2002年TOKYOビューティアドバイザースクール講師に就任。2013年株式会社『アントワーヌ』設立、代表に就任。
    オフィシャルブログ いなり王子の『いなりな日々』https://ameblo.jp/inari-oji/entry-12322953440.html

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/