いなり寿司は、奥が深い。スーパーやコンビニで売っているのもそこそこおいしいし、創意工夫を凝らして作られた新製品は、なるほどおいしい。高級料亭が作れば、さらにやっぱり、すごくおいしい。
それがわかったところで、〈いなり王子〉こと坂梨カズ、彼自身の正体がすごく気になる。『マツコの知らない世界』ではマツコを前にして独特の存在感を示し、知的でソフトでシニカルでお茶目な〝乙女系オジバ〟の魅力を発揮していた。いったい何者なんですか?
 尋ねると、話してくれたのは超面白い、波瀾万丈の人生だった。
「高校のときは不良というか、ハードコアパンクのバンドやっていたんです。インディーズでそこそこ人気あって、自主制作のレコードも売れたものだから途中でドロップアウトしちゃって、とんでもない暮らししてました。ところがある日マネジャーさんから〝あんた才能ないから止めなさい、高校くらい出ておきなさい〟と言われて、住み込みで板金溶接の仕事しながら定時制高校に行ったんです。そこから空調設備の下請け工場に移ったんですけど、設計の仕事している同年代の男の子の給料明細見たら、私より3万円も多い。〝どうして?〟って聞いたら〝それは技術があるからだよ〟って。世の中ってそういうものかって、その時初めて知ったんです、バカですねー(笑)。で、高校を出てから建設設備設計科っていうところに入って、写植版下屋でアルバイトを始めました。銀座にある老舗で、楽しかったんですけど、今度は突然、会社の№2の人が写植マンと版下マンを連れて独立しちゃった。それを知った社長も置き手紙を置いて失踪、バックレたんです。
残った社員が呆然として、しばらく考え込んでいたと思ったらバイトの私に〝ちょっと来てくれ〟って。〝お前、明日から営業に行ってくれ〟と言われて、床屋に連れて行かれてパンクヘアを泣く泣く切られ(笑)、三越で紺のスーツを買ってもらい、次の日から営業に回りました。広告を取りに行くって、どこに行ったらいいのかわからなくて、最初に行ったのが近くにあった『電通』です。広告代理店というのがどういうところなのかも知らずに、受付にいたキレイなお姉さんに〝仕事欲しいんですけど〟って言ったら、何を勘違いしたのか局長と面会させてくれて、その人が電通印刷というところを紹介してくれました。行ってみたら〝ちょうどいい、デザインのコンペがあるから、出てみないか〟って言われて、〝はい〟って請けたのが新聞15段の広告です。それまでバイトのお使いでデザイン会社さんを回っていたので、見様見真似で作ってみたら、たまたまそれがコンペを通ったんです。それから調子に乗りました、テングです(笑)」(明日へ続く)

  • 出演 :坂梨カズ   さかなし かず

    1966年9月18日生まれ。トータルビューティープロデューサー。幼い頃からいなり寿司を愛し、15年前から日常的にいなり寿司を愛好。好きが高じて『一般社団法人 いなり寿司協会』の設立に関わり、現在広報担当としていなり寿司の普及活動に努めている。1990年『凸版印刷 トッパンアイデアセンター』に入社してアートディレクターに。93年『GAP』に入社。95年『セシール』クリエイティブ部門にて商品開発に関わる。2002年TOKYOビューティアドバイザースクール講師に就任。2013年株式会社『アントワーヌ』設立、代表に就任。
    オフィシャルブログ いなり王子の『いなりな日々』https://ameblo.jp/inari-oji/entry-12322953440.html

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/