ハルキさんは高校卒業後、専門学校を経て大手商社に入社。輸出部門でバリバリ働き、あっという間に15年。そこでバブルがはじけ飛び、リストラの嵐が襲ってきた。
「世間で大企業の破たんや倒産が公になった頃から社内では露骨な肩たたきが始まりました。そのやり方に不信感が大きくなり、見ていられなかった。しかも当時の上司とはまったくそりが合わなくて、ああもうここにはいられない、と退職を決めました。もう未練はない、やりきった、と」
 退職してぶらぶらしていたところに、高校のクラス会のお知らせが。幹事だった松田クンに連絡をとり、18年ぶりで皆と再会。すると、驚いたことに。
「10人くらい来ていた女子の中で、独身は私ひとりだけだったんです。もっとみんなバリバリ働いてキャリアウーマンでいるのかと思ったら、みんなやることはやっているのね、と(笑)」
 実はハルキさん、次の仕事先を探すうちに、自分の生き方も考えていた。
「この先、自分のためだけに生きていくのはつまらないと思ったんです。自分を食べさせるためだけに働いて、良い服着て美味しいもの食べても、幸せとは思えない。私には家族が必要だわ。そうだ、結婚しよう、って」
 仕事と一緒に結婚相手も募集中。とはいえ先に仕事が決まって、またも旧友たちと食事会。そこに顔を出してくれたのが、クラス会幹事だった松田クンだった。帰り道、同じ方向に向かいながら、
「あ、ひょっとして彼は私のこと、好きなんじゃないかしらって、勘違いしまして」
 今度、映画に一緒にいかない? と、ハルキさんからアプローチ。ちなみにその映画はイタリア映画の『ライフ イズ ビューティフル』だったとか。
 映画は満席で見損なったけれど、そのまま銀座三越の屋上でデート。いろいろと話をしながら、ハルキさんはまたも閃いた。
「ああ、私、この人と結婚するんだって思ったんです。確信しました」
 その後3回目のデートで結婚を決め、付き合って9ヶ月後に、めでたく入籍。
「クラス会は行くもんだ、と、まだ独身の女友達には言います。結婚したいと思っているとね、人をしっかり見るようになるんです。見えなかったものが見えてくる。私は本当に家族が欲しかったので、彼なら私の家族になってくれる良い人だって、ちゃんとわかったのだと思います」
 その松田クンが、今の御主人。彼は、昭和末期まで現役を通し、最後の活動弁士と呼ばれた二代目松田春翠の息子。ここでようやく、ハルキと弁士がつながるのだ。

  • 出演 :ハルキ  はるき

    会社勤務を経て、2005年より無声映画公演のスタッフとして活動を開始。公演プロデュースも担当する一方、16㎜映写機・伴奏音楽のオペレーションを担当。映画説明(活動写真弁士)の習得に努め、2011年7月、活動弁士としてデビュー。2012年1月より2013年1月まで無声映画鑑賞会に出演。2013年7月「活動弁士 ハルキによる無声映画公演」をプロデュースするオフィス・アゲインを夫の松田豊とともに設立。

    【公演情報】
    10月21日(土)午後5時開演 花畑記念庭園・桜花亭 『瞼の母』
    11月2日(木)午後7時開演 岡谷スカラ座『ロイドの要心無用』 ピアノ演奏:新垣隆
    11月5日(日)時間未定 川越スカラ座 『散り行く花』 ピアノ演奏:新垣隆
    上映会情報はHPに掲載中。

    HP http://www.office-again.net/

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/