大学を卒業後、東京の芸能事務所に所属。ラッキーな展開だけど、だからといってすぐに女優の仕事が殺到するほど、芸能界は甘くない。

「ずっとヒマしてました。だらだら映画を見たり、本を読んだり。学生のうちに貯めていたお金を切り崩し、父親に助けてもらったこともあります。東京は、なかなか馴染めなかったですね。人が多いし、電車に乗るのも大変で。育ったのは盛岡で大学は京都で、いつも街中での移動は自転車とか徒歩とかバスでしたから、電車に乗ることが少なかったんです、それまでの人生で。だから免疫ができてなくて、最初に山手線に乗ったとき〝もうダメー!〟って途中で下りて、駅のホームで休んだりしてました。乗り物酔いなのか人に酔ったのかわかりませんけど。はい、今はもう、大丈夫です」

 女優の仕事も、なかなか決まらず。

「事務所からオーディションの連絡が来ると、準備して、頑張って。でもその後何も言われないから、ああ、ダメだったんだな、と。そういう毎日を過ごしていると正直、シンドいときもありました。思い詰めてしまうと疲れてしまうので、〝ううう、もうダメ〟と行き詰まったあたりでふっと力を抜いて、平常心に戻る。疲れると勝手に思考が止まるんです(笑)。ふつうに戻って、またちょっと落ち込んで、その繰り返しでしたね」

 だけど今回のNHKの朝ドラ、ヒロイン・オーディションでは、手応えがあった。

「今までは書類選考の段階で落ちていたんですけど、今回初めて二次選考に呼ばれたんです。〝本当ですか?〟って、ちょっとびっくりしました。でもオーディション会場に入ったら一気にオープンな気持ちになって、やるしかない、と思えたんです」

 スイッチが入ると、本領発揮。ヒロインには選ばれなかったけれど、めでたくヒロインの親友役をゲットした。

「最初、病弱な友だちという設定を聞いて、これは私の演技の出来によって、この役が長生きできるかどうか決まるのかな、と思ったんです。演技が下手だったら早く消えてしまう運命なのかと(笑)。だったら頑張らなきゃと思ったんですけど、物語の導入部で中年以降の姿を撮影したので、その年齢くらいまでは出してもらえるとわかって、ちょっと安心しました」

  • 出演:土村 芳(つちむら かほ)

    1990年12月11日生まれ。岩手県出身。京都造形大学映画学科卒。舞台・映画・CMなどで活躍。主な出演作に映画『カミハテ商店』『弥勒-MIROKU-』『劇場霊』、ドラマ『ワカコ酒』『フラガールと犬のチョコ』『コウノドリ』、舞台『銀河鉄道の夜』『母に欲す』など。現在は映画『何者』、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』にヒロインの友人・君枝役で出演中。
    オフィシャルサイト ヒラタオフィス http://www.hirata-office.jp

    HAIR&MAKE:石邑麻由

    STYLIST:道端亜未

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/