式町水晶は今、大忙し。4月11日にメジャーデビューとなるアルバム『孤独の戦士』が発売され、14日に同題の記念コンサートが開かれるため、連日その準備に追われている。
「毎日、取材と練習の繰り返しで、あと残りの時間すべては、身体を鍛えることに捧げています。1週間に最低3日は10キロ走り、ジムで筋トレします。他の日も走るから、週に40キロは走るようにしてますね」
 ふつうのヴァイオリニストなら、そこまで身体を鍛える必要はない。でも彼には脳性まひというハンディキャップがあるのだ。その上でヴァイオリニストとして、舞台の上で2時間以上集中して演奏するには、スタミナと筋力がどうしても必要になる。
「筋肉が落ちた瞬間、スペックがいきなり下がるんです、ふつうの人と違って。それを僕は身体でよく知っているので、面倒くさいけど、鍛え続けています。すべてはヴァイオリンを弾くため。お客さまの前で、なるべく元気な姿で、いい演奏をするためです」
 3歳で脳性まひと診断され、その後徐々にさまざまな症状が出てきた。失明宣告されたり、一生車椅子、果ては寝たきりになると説明する医師がほとんどだったという。中学生時代はぜんそくや高血圧、胃腸炎などで入退院をくりかえし、体力が落ちて、手足の障害も進んだ。ふだんは車椅子を使っていたという。中学を卒業してから6年しか経っていないのに、今はまるでアスリートのようなこのボディ。いったい何があったの?
「ギャップがハンパないですよね(笑)。知らない人が見たら、別人だと思うかもしれません。僕は4級の障害者なんですが、1級から7級まであるうちの真ん中、そこまで重度でもなく、そこまで軽度でもない。リハビリも特に指示されなくて、医師からは、トレーニングなんかして筋肉をつけたりすると、まひがひどくなるよって言われていました。でも中学のときに筋肉が落ちて体力もなくなって、かなりヒドイ状況までいったので、こうなったら医者の忠告の逆を行こうと(笑)。自己流で身体を鍛え始めたんです。たしかに医者の言うとおり、筋肉の付け方を間違えると、例えばパンプアップするような筋肉をつけると、やっぱり固くなってまひがひどくなる。でも柔軟性のある筋肉をつけていけば、問題ないかな、と。いろいろ自分で研究して、先にスタミナをつけてからゆっくり筋トレして、今の身体を作りました」
 音楽の素養はもちろん、あったはず。でもそれだけじゃなく、いろいろな要素がからまりあって、今の式町水晶を作っている。今週のYEOは、ヴァイオリニスト式町水晶がどうやって今の自分を作ってきたのか、のお話。金曜日まで連日更新でお伝えします。

  • 出演 :式町水晶 しきまち みずき

    1996年、北海道生まれ。3歳のときに脳性麻痺(小脳低形成)と診断され、5歳のとき網膜変性症・眼球運動失調・視神経乳頭陥凹拡大(緑内障)が見つかる。リハビリの一環として4歳からヴァイオリン教室に通い始める。8歳で中澤きみ子氏に師事。10歳からポップスヴァイオリンを始め、中西俊博氏に師事。

    オフィシャルサイト(FBとTwitter情報あり)https://www.mizuki-shikimachi.com/

  • メジャーデビューアルバム●『孤独の戦士』4月11日(水)、キングレコードより発売。
    メジャーデビューアルバム発売記念コンサート●『式町水晶 孤独の戦士』ニッショーホール(日本消防会館)4月14日(土)15時30分開演

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/